KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 017
『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
サンダー・エリックス・キャッツ(著),水原文(訳), オライリー・ジャパン/オーム社, 2016年4月26日
“はっこうちゃん。”の愛読書棚の一冊
数多くの発酵本の中でも、“はっこうちゃん。”が愛読している一冊が「発酵の技法」。世界の発酵を実践的、学識的に紐解いているだけでなく、並々ならぬ発酵への情熱が伝わってくる、発酵魂を揺さぶる本です。
著者のサンダー・キャッツは、発酵界では知る人ぞ知る注目の人。発酵をライフワークに実践的に研究する第一人者といっても過言ではないでしょう。2016年に来日した時は醸造に明るい3つ星シェフ、蔵人、発酵人達がワークショップに参加していました。私も、参加者と共に憧れのサンダー氏とキャベツを刻んでザワークラフトを仕込んだのは今でも良い思い出です。それ以来、植物の乳酸発酵にさらなる興味を抱いて、色々試すようになり、今に至ります。
総括的な章立てのDIY発酵完全ガイド
全14章、アルコール、野菜、乳製品、穀物、肉魚卵類、そのほか、あらゆる自然発酵を網羅しています。私たちが慣れ親しむ発酵調味料である味噌やしょうゆは「豆類や種子、ナッツを発酵させる」章で紹介されています。インドのレンズ豆発酵蒸しパン(イドリ)、メキシコのササゲ(小豆に似ている豆)の発酵揚げパンに続いて味噌の話になります。
包括的に大豆の特性や栽培の世界的背景を紹介するだけでなく、普段思いつかない味噌の使い方が盛りだくさんです。味噌にピーナッツバターを組み合わせて、かんきつ系ジュースを加えて、ドレッシング!?などなど。同じ章にカカオ、コーヒー、どんぐりの発酵も入っており、日本の発酵本の章立てに慣れていると、一瞬戸惑いますが、思考が刺激されます。どの章も読み続けるうちに“試してみたくなる何か”があり、自分の発想が豊かになっていく感覚があります。
自然発酵ライフスタイルの伴走書として
発酵食品は、正確には人間の発明ではない。自然現象を人が観察し、そこから美容発酵の方法を学んだのだ。
400ページ以上ある著書は、一度に読み通して完結するタイプの本とは異なります。食に留まらず、エネルギーや廃棄物処理、美容やアートと自然発酵の関わりも言及されています。
内容が濃すぎて、一度で全て理解することは至難の業かもしれません。読み手が自然発酵のライフスタイルを好む人であれば、発酵生活の字引となるでしょう。グルメで世界の食文化に興味のある人には、美味しさと微生物の関係を多角的に学べるでしょう。自然発酵への理解を深めたい方には非常におススメの一冊です。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』(現在の記事)
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』