KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 009
『もやしもん』
石川雅之著, 講談社 2005年5月23日 初版発行
キャラクター化された微生物たちが大活躍
友人に教えられて久しぶりに手に取った漫画本です。最近、微生物関連の原稿を書いているという話をすると、「ぜひ読んでみて」とすすめられました。
この『もやしもん』は、2004年から漫画誌で連載されたものを単行本化したシリーズで全13巻。人気を集めた漫画シリーズで、実写ドラマ化されたり、絵本がつくれたりもしています。発売が十数年前という古い漫画ですが、それでも魅力が色褪せないのはテーマがユニークだからでしょう。微生物と人間の営みをストーリーの主軸にしているのです。
主人公は、微生物が肉眼で見えるという不思議な能力をもつ学生、沢木惣右衛門直保(さわきそうえもんただやす)。沢木は、麹菌を扱う「種麹屋」の跡継ぎである。酒造などに使われる麹菌は昔「もやし」とも呼ばれ、それがタイトルの由来です。東京のある農業大学を舞台に、沢木と仲間たちが織りなす学園ドラマという仕立てになっています。
そして隠れた主役ともいえるのが、毎回登場する微生物たちです。かわいらしくキャラクター化され、微生物同士や主人公と会話したりします。たとえば、発酵する甕の中での乳酸菌A・ラクテスと麹菌A・オリゼーの会話。
『すっぱくしようよ』
『いやいや甘くすべきだ』
『固めるってのはどうだろう』
『とりあえずかもす(醸す)か』
主人公と微生物が語りあう本音トーク(?)が印象的
農業大学での仲間たちの生活を横軸に、微生物の活躍を縦軸にストーリーは展開されていきます。テーマも日本酒をはじめとする発酵食、農業、食品、さらには腸や肌など人のからだのことなど多種多様です。なかには世界一臭い食べものといわれる「シュール・ストレミング」などめずらしい話題も。毎回のようにウンチクが語られ、読み応えもたっぷりです。ときどきドキッとする言葉に出会ってページをめくる手をとめてしまいそうになります。
『君の営み 我々の営み 別々のようで同じなんだヨ それぞれの輪であるが この世界は全てつながっているんだ』
これは主人公たちの恩師である農大教授、樹慶蔵のひと言。それでいて楽しく軽やかに読めるのは、やはり漫画という表現のすばらしさでしょう。
最終話では、主人公と微生物たちが友情のようなお互いの関係についてしみじみ(?)語りあいます。それが人間と微生物の本音トークのように思えてしまいました。なかでも印象的だったのが、微生物が語りかける次のセリフ。KOSMOSTのテーマにも共通するものがあると思います。
『人類が唯一成功した錬金術 それこそが酒であり発酵という菌の力の奇跡』
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』 (現在の記事)
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』