KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 018
『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
青木 皐(著), 集英社新書, 2004年9月22日
「常在菌」への理解が深まり、共に生きていく覚悟ができそうな一冊
人は自分だけでは生きていけない。…… 母の胎内を出た瞬間から、死ぬまで決して離れないヤツがいる。……その名は「常在菌」。
私たちのからだは、36の元素で構成されているそうです。中でも水素(H)は化合物となって、H2Oというかたちで存在しています。体重の約6割が水分であることは広く知られている事実かもしれません。元素が複雑に組み合わさり、小さな細胞となって機能してくれることで、私たちは生きています。その細胞の数は約60兆個だそうです。では、常在菌はどうでしょうか。この常在菌とは、人のからだに日常的に存在する微生物のこと。頭のてっぺんから足の先まで合わせて約100兆個いるそうです。
共に生きている常在菌ですが、ともすると知らず知らずのうちに常在菌に悪影響を与えているかもしれません。自分と共にいる微生物と仲良く暮らしていくにはどうしたらよいのでしょうか?
医学博士である著者が健康と美容という切り口から、わかりやすく、専門的に常在菌について解説しています。アレルギーやストレス、免疫と常在菌のメカニズムも学びが多いですし、日々の生活の中で取り入れられる常在菌を育てる(育菌)の習慣に関するヒントも盛りだくさんです。
包括的な「育菌」のススメ。皮膚常在菌と腸内常在菌
常在菌を無視しては、人の身体はうまく機能しない。……有害な常在菌もいる。……いったいどうすればよいのか。
答は一つ。有害菌の増殖を抑える努力を人間がすればよいのである
実は、一言に有害菌と言っても、単純な話ではありません。特定した菌を排除して問題解決とはいかないのです。腐敗物質を産生して有害菌とされている微生物が、抗体の産生に関わり、免疫系にとって有益に働いているケースや、有益菌であっても人間のカラダが弱っていると病原性を出して感染するケースもあるとか。有益とも有害ともいいがたい菌達が複数存在しています。
有害菌の増殖を抑えるには、有益菌を増やして全体のバランスを整えていくという発想が、著者が唱える「育菌」です。そのために皮膚常在菌、腸内常在菌を積極的に育てる方法を紐解いています。
今では、耳にしたこともある人も多い「育菌」という言葉ですが、著書は2004年に出版されており、先見の明を感じます。今回紹介している本だけでなく、2006年には『菌子ちゃんの美人法』(WAVE出版)を著し、可愛いらしくユニークなアプローチで本気で育菌を説いています。一貫していますね。
“はっこうちゃん。”の大切な思い出の書籍
少し余談になりますが、“はっこうちゃん。”が著書を手にしたのは2011年です。尊敬する自然酒づくりの醸造元のご主人に薦められた一冊です。
その方は若かりし頃の反省もあって、晩年に自然発酵の思想と実践に注力し、蔵に棲みつく微生物の力でお酒造りをはじめました。ご存命の頃は、微生物との響き合いを大切にし、微生物から学んだことを伝えたいと精力的に活動されていました。
多くのことを教えていただいた中の一つに「人体常在菌のはなし」がありました。改めて読みなおし、微生物との共存のヒントをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし-- 美人は菌でつくられる』(現在の記事)
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』