KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 015
『ノーマの発酵ガイド』
レネ・レゼピ、ディヴィッド・ジルバー(著/文), 水原文(翻訳), 角川書店, 2019年3月20日
ノーマを支える大黒柱は「発酵」
デンマークのコペンハーゲンにあるレストラン「ノーマ」。人生で1回は行ってみたい夢のレストランです。「世界ベストレストラン50」で、最新の2021年版を含め、すでに4回トップに選ばれています。天才シェフの呼び声高いレネ・レゼピは、常識を覆す美食メニューを創造し、世界に提案し続けています。映画『ノーマ、世界を変える料理』でも話題になりました。そのノーマから発行された発酵ガイドに記されていたのは、”ノーマを支える大黒柱は発酵”という言葉。微生物を活かす美食が丁寧に語られている1冊です。
ノーマでは、あらゆる料理に、なんらかの形で発酵がかかわっているーー
少し偏った、実践的、専門的、美的な発酵ガイド
発酵ガイドと言っても、全ての発酵食品を網羅しているわけではありません。パンやアルコール発酵、肉の加工発酵が項目に含まれていないのは、ノーマ自身が作り手というより、作り手の達人と関わって取り入れているからだそうです。
一方、ノーマが扱っている天然発酵の手法で作る果実や野菜の乳酸発酵、コンブチャ、酢、麹、味噌、しょうゆ、ガルム(魚醤や肉醤)が章立てで、丁寧に、詳しく、論理的に、美的に紹介されています。レネは何度も来日してコウジカビのことも研究しています。驚くべきは、麹への固定観念がないので、発想が自由なことです。コーヒー醤油、ナッツ味噌、麹マヨネーズなど、新しい発想に満ちあふれています。
さらに、発酵をはじめるにあたり、知っておくべき微生物のこと、道具や準備のことも、科学的、実践的にわかりやすく説明されています。発酵箱の作り方もステップを追って紹介されています。発酵初心者よりも発酵へ関心度度合いが高い方へオススメです。
絶妙な酸味を発酵によって醸し出す
ノーマが発酵の虜になったきっかけは、セイヨウスグリの塩漬けだったそうです。1年間漬けたまま、忘れていたそれを味見した時に、これまで食したことのない味がしたそう。その味の正体は乳酸発酵。ザワークラフトやキムチは代表的な乳酸発酵食品ですが、ノーマの凄いところはその先を探究しているところです。
”ほかにどんなものが乳酸発酵できるのだろう?”と考えずにはいられなくなってしまいます
乳酸菌が活かされる環境を研究し、季節や地域の素材に、正確に計量した塩分量を加え、清潔な環境で発酵し、世話をして、観察する。一見すると簡単に聞こえますが、日々発酵状態が変わる中で継続的に実践するのは至難の技です。こうして微妙な酸味に対して高い感度を鍛えているノーマだからこそ引き出せる酸味があるのも納得です。そして、乳酸菌だけでなく、多様なビネガーを天然発酵の手法を用いて作っています。酸味を操ることで広がる味の世界に興味をそそられますね。
ノーマが世界のベストレストランのトップに選ばれる理由が垣間見られる、完成度の高い発酵ガイドです。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』(現在の記事)
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』