KOSMOSTが読んだ“おすすめ本”ライブラリー
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 003
『マイクロバイオームの世界 ――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
ロブ・デサール&スーザン・L.パーキンズ 著, 斉藤隆央 訳, 紀伊国屋書店, 2016年12月1日
「私」のからだとマイクロバイオーム
この本の第1章は、こんな文章で、はじまります。
あなたは、あなたが思っているようなあなたではない。鏡を見たときにあなたを見返すその姿ではなく、あなたが考えるべきは、自分のからだがたくさんの動的な生態系の集まりであり、それが、とても小さくて、とても多様な生物で構成されているということだ
一瞬、ページを閉じてしまうほどの衝撃です。人間のからだは、「私」というひとつの生物だけで生きているのではなく、たくさんの微生物によって成り立っている。どうも、「私」は自分が考えている以上に、微生物でいっぱいらしい……。
ドキドキしながらも、勇気をだして本のページをめくることにいたしましょう。
「マイクロバイオーム」とは、人間の体表や体内に棲む何兆もの微生物が形成する群衆のこと。
本の内容は、微生物の歴史・遺伝子の話はさることながら、じっさいの私たちのマイクロバイオームにスコープをあてています。そこには、胃腸だけでなく、鼻の穴や腋のしたや、おへそに暮らす菌のことまで、含められています。
人間のからだをこえて、家の中のテレビや、まくらカバーに分布する微生物の話まで、ありとあらゆる場所でくり広げられる微生物ワールドについて、実際の調査結果を交えながら語られていくのです。
そして、ところどころで交わるユーモア。「しっかり学びたい人のための基本書」というコピーがついていたので、どれだけカタイ本かと身構えていましたが、ついクスクス笑ってしまう、楽しい本なのでした。
「私」のからだで微生物の世界が広がっていく
まるで、この本は「マイクロバイオーム」の博物館で、読み手の私が著者の2人から、展示品の前で案内をうけているような、ユニークな感覚です。(実際、両氏はアメリカ自然史博物館の学芸員でもあります)
博物館的なこの本には、ところどころで、体験コーナーも設けられています。
人体の防御システムについての章では、「あなたが感染症の細菌だとしよう。人体の新たな棲みかへ移るとき、あなたは何と出会うだろう」という著者の呼びかけのもと、自分が病原菌となって、鼻孔から肺へ抜ける大冒険をアタマの中で経験することができるのです。
こうしてみると、「まるで微生物の暮らしのために、私たち人間は存在しているのかも……」と、感じます。
そして、あらためて鏡の中の私を見ると、いつもの自分が、微生物の遺伝子を未来へと運ぶ船のように見えるのでした。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』(現在の記事)
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』