KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 014
『土と内臓 −微生物がつくる世界』
デイビッド・モントゴメリー(著/文), アン・ビクレー(著/文), 片岡 夏実(翻訳), 築地書館, 2016年11月14日
くらしと学問の両方から深める、微生物と人間の関係
筆者の一人である、デイビッド・モントゴメリーはワシントン大学教授かつ国際的な地質学者で、「土」のエキスパートです。土の再生論について、3部作『土の文明史』、『土と内臓』、『土・牛・微生物』(全て築地書館)を発表しています。そのうち、生物学者である妻アン・ビクレーと共著として出版されたのが、今回紹介する『土と内臓 微生物がつくる世界』です。
土壌の専門家であるはずの夫妻が購入した家の庭の土壌が期待外れだった……というくらしのエピソードから、微生物の学びを学問的、歴史的かつ実践的に紐解いていく一冊です。
微生物は他に何ができるのだろうか?それは、想像を超えていた。
「微生物」を起点に広がるウェルネス考察
著書の前半では土と微生物の相互作用を中心に話が広がっていきます。読めば読むほど、植物の根のまわりで起きている植物と土壌生物間の取引が複雑であることがわかります。微生物という媒介者への関心が高まります。
地下の生態系に続き、人・動物の中にいる微生物についても掘り下げられていきます。著者は思いがけない闘病を通して、大腸の役割や食生活の在り方を見直し、また飼い犬の肺炎を通して、抗生物質と過去と現代の病気について問いかけます。
いのちを救ってきた抗生物質がもたらす微生物との接触機会の減少という問題に対して、免疫系と相性の良い微生物と共存する方法はないだろうか?とマイクロバイオーム(宿主に定住する微生物の遺伝子の総体/著書より)に着目して研究を調査し、著者の考えを展開していきます。
日本語選びの匠「土と内臓」
原書は”The Hidden Half of Nature”ですが、日本語版では「土と内臓」と訳されています。直訳である「自然の隠れた半分」とは、目に見えないが豊富に存在している知られざる存在を筆者が表現して名付けたそうですが、訳者はあえて「土と内臓」と日本語を選んでいます。
著書は土壌微生物からはじまり、人間の免疫に欠かせないヒトマイクロバイオームまで広がりますが、土壌細菌と腸内細菌の間に多くの共通点を見つけていきます。根と大腸は同じはたらきがあり、そこに見えない境界線があると言うのです。なるほど、「土と内臓」ですね。「自然の隠れた半分」と言われるより、腑に落ちます。
文章量も多く、内容も濃く、サイエンスの難しい内容も多いですが、人間が生きる上で大切なことを凝縮した一冊です。本の終わりにはキーワード解説もあるので助かります。そして、嬉しいのは日本語訳がわかりやすく、読みやすい言葉で選ばれていることです。訳者のレベルの高さを感じる本でもあります。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』 (現在の記事)
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』