KOSMOST 編集部が読んだ“おすすめ本”ライブラリー。
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 016
『生物と無生物のあいだ』
福岡伸一(著), 講談社現代新書, 2007年5月20日
「生命とは何か?」を問い続ける、生物学者の名著
生物学者である福岡伸一氏の著書『生物と無生物のあいだ』をご存じの方も多いことでしょう。2007年に出版されて間もなく、第29回サントリー学芸賞、第1回新書大賞を受賞し、話題になった名著です。生命とは何かの問いをテーマとしていますが、この著書のすごい点は、理系にも文系にも響く内容になっていることです。専門的な研究の軌跡とヒューマン・ドラマが、予想外のテンポで交錯しながら進んでいく、新しいタイプの科学文学ともいえるのではないでしょうか?
ノーベル賞の裏側にあるものがたり
著者が研究を行っていたハーバード大学医学部やロックフェラー大学は、ノーベル賞を目指して切磋琢磨する研究者が多い名門です。その中で華やかな舞台に立つ者もいれば、そうでない者もいます。自ら命を絶つ者さえも。著書では、縁の下の力持ちとなった、数々の研究者の素晴らしい貢献と努力や信念が丁寧に記されています。そこに沢山のヒューマン・ドラマがあることを知り、読者は感情を揺さぶられます。例えば、遺伝子の本体である物質を究明した遅咲きの研究者、権力闘争に巻き込まれた女性研究者など。そして、福岡氏が研究者として困難を感じたニューヨーク、ボストンでの想いもところどころに表現されています。
生命とは動的平衡にある流れ
DNAという自己複製分子が発見されたことから、生命の定義は一度は「自己複製しうるもの」とされました。著書は一流の研究者でも超えられない100%純度の実験の壁を丁寧に解説しながら、物質の「ふるまい」という視点をもって、生命の秩序とは何か、動的な特性について掘りさげていきます。
生命にはこれまで物理学が知っていた統計学的な法則とはまったく別の原理が存在しているに違いない
つまり生命は、「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力をもっている」ということになる
さらに言えば
秩序は守られるために、絶え間なく壊されなければならない
というのです。この流れが動的平衡(dynamic equilibrium)であり、生命とは何かの問いのヒントとなります。
著書では、自身の膵臓細胞の研究を通して、あるたんぱく質の奇妙な「ふるまい」の相関性からも、動的平衡の許容性を紐解いていきます。研究結果をコントロールすることよりも、生命がもつ動的平衡と共存するたくましさを称賛する福岡氏の生物学者の懐の深さを感じる一冊です。
コロナ禍を経験している私たちにとっては、ウィルスの在り方も気になるところですが、著書はこう記しています。
ウィルスは生物と無生物のあいだをたゆたう何者かである
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』(現在の記事)
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』