KOSMOSTが読んだ“おすすめ本”ライブラリー
微生物が愛らしくなる本を紹介します。
ライブラリー 001
『見えない巨人―微生物』
別府輝彦 著, ベレ出版, 2015年11月2日
肉眼では見えない、微生物の世界
休日の朝、何気なくテレビをつけると、子ども用のアニメが流れてきました。主人公の子が何やら困っていて、それを助けるドラえもんのような相方が、ジャジャーン!と取り出したのが「見る見るめがね」。水中めがねにうり二つのそれは、なんと、肉眼で見えないものも、見ることができるスーパーめがね。
それを受け取った主人公の子は飛び上がって喜ぶ…という、ほのぼのエピソードでした。
アニメなので、当然フィクションです。でも本当に「見る見るめがね」があったら、微生物の世界をもっと身近に感じることができるだろうな…と、羨ましくテレビ画面を見つめる私でした。
それは、微生物の世界や生き方が、人間である私たちにとって深いかかわりがあるということを、この本からひしひしと、感じたからに、他なりません。
ちいさな微生物の、多様なはたらき
一つ一つは小さくて「見えない」けれども、全体としては地球生物圏の中でもっとも「巨大な」、そして「多様な」生き物なのだ(本著より)
この本は、科学的な横顔から発酵食品や伝染病のことまで、地球環境を支える存在である微生物のさまざまな働きや生き方を一冊にまとめた入門書。微生物をあらゆる角度から語りつくしたこの本には「共生」という言葉がたびたび登場します。
微生物同士の助け合いによる共生もあれば、微生物のかもす発酵食品が人間の食生活を豊かにして文化を創造しているという共生もありますが、もっと根本的に、地球上で、炭素や窒素という生物にとって必要な物質を循環させる立役者であるという事実――。何か一部における共生ではなく、微生物のそれは、まるで地球全体を網の目のように結び付けているようです。
微生物へのまなざしと共に
目に見えない微生物には思いがけないほどさまざまな種類があって、あるものは酒やチーズの発酵で人の役に立つかと思うと、恐ろしい病気の流行を引き起こすものもあります
専門家のつもりでそんなことを話していたときに、「微生物とは何か?」というもっとも基本的な質問をされて、「小さい生き物のことである」と言い換えるしかなかったのは、著者自身の苦い経験です
この本の著者、別府輝彦さんは、東京大学大学院教授、日本大学生物資源科学部教授を経て、平成24年には文化功労者になるなど、微生物の研究ですばらしい経歴の持ち主です。微生物のオーソリティーである著者が、みずから「苦い経験」を表に出し、『微生物の生き方についてもっと知らなければ』と筆を走らせたのです。そんな情熱をかきたてるのも、微生物のすごさなのかもしれません。
地球という惑星と共生している「見えない巨人」――それが微生物なのです
と、締めくくった著者の、微生物に対する、温かいまなざしと畏怖、そして、少年のような純粋なあこがれ。肉眼でみえないからこそ、微生物の存在を、大切に考えていくことができるのかもしれません。
遠い未来に、ほんとうに「見る見るめがね」が出現して、微生物をかんたんに見ることができるようになったら、お腹の中に棲むビフィズス菌を見て健康状態がわかったり、海で泳ぐときも、魚だけでなく微生物とたわむれたりすることができるようになるでしょうか。
とっても楽しいことだろう…と思いつつ、著者のように「見えない巨人」への眼差しを持ちつづけることは、忘れてはならないように、思うのです。
【微生物とよく暮らすKOSMOSTライブラリー:バックナンバー】
001:『見えない巨人―微生物』 (現在の記事)
002:『細菌ホテル』
003:『マイクロバイオームの世界――あなたの中と表面と周りにいる何兆もの微生物たち』
004:『微生物のサバイバル1・2』
005:『日本発酵紀行』
006:『腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか』
007:『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』
008:『ととのう発酵』ディスカバー・ジャパン2021年7月号
009:『もやしもん』
010:『最終結論「発酵食品」の奇跡』
011:『世界一やさしい!微生物図鑑』
012:『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』
013:『図解でよくわかる 土壌微生物のきほん: 土の中のしくみから、土づくり、家庭菜園での利用法まで』
014:『土と内臓―微生物がつくる世界』
015:『ノーマの発酵ガイド』
016:『生物と無生物のあいだ』
017:『発酵の技法 ─世界の発酵食品と発酵文化の探求』
018:『人体常在菌のはなし ── 美人は菌でつくられる』
019:『生物から見た世界』
020:『麹本: KOJI for LIFE』