自転車トラック競技で活躍中の梶原悠未さん。2021年は東京五輪・世界選手権・チャンピオンズリーグに出場し、日本だけでなく世界に活動の場を広げています。欧州と日本を拠点にトレーニングを行っています。23年5月の全日本選手権では5種目優勝、6月アジア選手権では4冠を達成しました。24年夏・パリの金メダルを目指して、日々、厳しいトレーニングを重ねています。その母であり、マネージャーとして食事の管理などに携わる梶原有里さんの連載の第8回目。今回は、オリンピック金メダルを目指すうえで、特に重視していたという「脳のトレーニング」についてです。(2022年9月7日公開、2024年3月29日更新)
[ 梶原有里、世界への窓 第8回 ]
脳のトレーニングでオリンピック・レベルの精神力を鍛える
「ママも、生活の全てをアスリートとして生きてほしい」。大学2年生のときに悠未が放ったこの言葉から、オリンピック金メダルへ向けた、二人三脚の日々がはじまりました。この日から、「覚悟、決めたよね」が2人の合言葉になりました。
オリンピックで金メダルを獲得するためには、体づくりに加えて「脳のトレーニング」が欠かせません。というのも、脳について勉強をしているうちに、あらゆるイメージは脳が引き起こしており、そのイメージが行動にも影響を及ぼすことがわかってきたのです。
ということは、たとえネガティブなイメージが浮かんだとしても、それをポジティブに言い換えられれば、パフォーマンスにもいい影響を与えることができるわけです。たとえば、トレーニングが辛いと感じたら「今のトレーニングは(辛いのではなく)楽しい」と思い込む。キツイと感じたら「強くなっているね」と即座に言葉にする。すると、脳は思ったよりも単純なので、「楽しい」「強い」という言葉を純粋に受け取ってくれるようになります。
イメージ・トレーニングがもたらす行動へのポジティブな変化は、以前から悠未も私も実感していました。そこで、オリンピックが延期になった期間にとことん脳を鍛え、精神力を磨き上げました。こうすることで、ただの空回りな自信ではなく、脳が本当に「自信がある」と思えるコンディションをつくることができたのです。
とはいえ、レース前になると「本当に勝てるのか」と不安になります。それは学生の頃の悠未も同じでした。そこで私は「勝てている様子をイメージすればいい」と話をし、憧れの水泳選手である北島康介さんが優勝する映像を見せて、試合後のインタビューシーンを含めて、自分に置き換えてみるトレーニングを当時から勧めていました。
高校で自転車をはじめた頃には、レース1ヶ月前に具体的なイメージ・トレーニングをスタートさせ、試合1週間前には優勝レース後に投稿するSNSの文章まで完成した状態に仕上げた上で、試合に臨めるようになっていました。そこまで事前のイメージを徹底させれば、当日はただイメージ通りに走るだけという心理状態になれるわけです。
オリンピック開催の1年前からは、イメージ・トレーニングのレベルをさらに上げ、「どうやって勝つか」だけでなく「こんなふうに表彰をされて、翌日はこのメディアの取材があって、こんなテレビ局のビルに入って…」と、細部までイメージするようにしました。より具体的にイメージできるよう、実際にテレビ局の建物画像を調べたりもしていました。あるテレビ番組に出演した際には、ディレクターの方へ「オリンピックで優勝した翌日は、番組へ呼んでくださいね」と話をしていたくらいです。
このように、試合直前に慌てるのではなく、試合のずっと前から自分のなかであらゆるイメージを決められるようなトレーニングを積み重ねてきました。オリンピックが近づくと、私も「金メダルをとって一緒にメディアに回っているイメージをしているよ。だから悠未ちゃん、勝ってね!」という感じで、悠未を応援するようになっていきます。
次回のコラムでは、オリンピックを直前に控えた時の心境を中心にお話したいと思います。
執筆:梶原有里 / Kajihara Yuri
プロフィール
自転車競技で活躍中の梶原悠未選手の母であり、マネージャー。2児の母として子育てに取り組むとともに、長女、悠未さんのサポートを通じてスポーツ・マネジメントを学ぶ。現在は、悠未さんのマネージャーとして、練習のサポート、取材の対応、そして毎日の食事の管理に携わる。スポーツフードマイスター。アスリート栄養食インストラクター等の資格を取得。JADP認定メンタル心理上級カウンセラー。
https://www.twitter.com/
https://www.instagram.com/yurikajihara/
【バックナンバー】
[梶原有里、世界への窓 第1回] 銀メダルからの挑戦
[梶原有里、世界への窓 第2回] マネージャーとして母として“食の大切さ”を思う日々
[梶原有里、世界への窓 第3回] 世界的アスリートの子育てポイントは「体験」と「興味」
[梶原有里、世界への窓 第4回] 世界的アスリートを育てた食事法
[梶原有里、世界への窓 第5回] 世界的アスリートが実践する海外遠征時の食事法
[梶原有里、世界への窓 第6回] オリンピックを決めた「ある一言」とひとつの挫折
[梶原有里、世界への窓 第7回] 高校入学を機に水泳から自転車へ転身、オリンピック金メダルを目指す
[梶原有里、世界への窓 第8回] 脳のトレーニングでオリンピック・レベルの精神力を鍛える (現在の記事)
[梶原有里、世界への窓 第9回] 「笑顔」で晴れの舞台へ、オリンピック当日までの過ごし方
[梶原有里、世界への窓 第10回] オリンピック銀メダルからの新たな挑戦
【梶原有里 イベント・レポート】
自転車アスリートの食事を梶原有里さんに学ぶ ~KOSMOST発酵ダイアログJANレポート
【梶原有里さん、梶原悠未さん インタビュー連載】
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(3)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(3)