「微生物」は、古くから暮らしに関わり深いパートナーです。実は、伝統的な染色である「藍」にも関係しています。その「藍」を、東京神田のビル街で育て、子供たちと染色するなど学び楽しむプロジェクトがはじまっています。今回は、プロジェクトを推進する一般社団法人「遊心」代表理事の峯岸由美子さんによるフォト日記の5回目。 今月はいよいよ藍の「花」が咲きました。
【2021年11月某日】
森や山の紅葉の便りがここ関東でも広まっています。あっという間に季節がめぐり、空気が澄んで秋が深まったようです。
神田藍も、あちこちで小さくて可憐な花が、風に揺れています。ここ神田では10月に入って花が咲き始め、下旬には満開となりました。
じっくり見てみると、藍の花は、赤や白の穂のような小花で、花先は濃いピンク色をしています。 この長さ2mm程の痩果(そうか:種を持つ果皮の硬い小さな果実)が、やがて黒褐色のタネとなります。花が開いた後、花穂全体が茶色になってきます。この状態ではまだ小さいのですが、もう少し大きくしてから少しずつタネ取りを始めます。
毎年このタイミングを外してしまうんです。気が付くとこぼれタネになって、翌年そこから勝手に発芽してしまうものもあります。今年こそはと、花穂を眺める毎日です。
神田藍のタネは、もとは徳島産、鳥取産ですが、それが1年2年と引き継がれて、今は全体の半分くらいが神田産のタネになっています。
さて、タデ藍にはいろいろな品種があります。
赤花小上粉(あかはなこじょうこ)、白花小上粉(しろばなこじょうこ)、赤茎小千本(あかくきこせんぼん)、青茎小千本茎(あおくきこせんぼん)、百貫(ひゃっかん)などです。最も栽培されている小上粉、上に伸びる小千本など特徴がそれぞれあり、また花の色も「赤」「白」などの種類があります。
「赤」といっても紫がかった濃いピンクのようでもあり、鉢によってはそれが薄桃色であったりと、育てた場所によって少し色が違うようにみえます。葉の刈り取りのタイミングで花の付く時期がずれますから、それにも影響しているのかもしれません。
育てている場所も、屋上やベランダ、商店や民家の前、駐車場横の花壇、酒樽の中とそれぞれですから、太陽のあたり具合や風の通り具合、水の量などによっても、生育に違いがでてくるのでしょう。私は、栽培をしてくださっている方に、育てながら藍に声かけてくださいねとお話しています。萎れてくれば「頑張れ、頑張れ」、花が咲けば「綺麗だね」、タネが付けば「今年も良くやった」と。気のせいかもしれませんが、それによって、葉や花の生育が変わってくるような気がするのも、自分で育てているからでしょうか。
先日、屋上で藍を育てている方がおっしゃいました。
「こんなかわいらしい花を独り占めでみているのが、なんかもったいない気がしてきました。」
手入れもさほどしていないのにと謙遜されていましたが、見事に小さな花が咲きました。その方が藍を大切に気にかけ、見守って育ててくださっているのがわかります。
藍の花は洋花のように華やかではありませんが、可憐で味わい深いものです。その花が、神田という都会の街の中で風に揺れてなびいているのを見ると、心がなんとなくゆったりとした気持ちになります。田んぼや畑で稲穂や麦が風になびくのを見たときのような感覚を呼び起こします。
藍の歴史は大変古く、世界では紀元前3000年ごろの遺跡から藍染めの染色増跡がみつかっています。日本では、飛鳥時代から奈良時代の出雲の国から広がったと言われています。もしかすると、私たち一人一人の心の中に、生活に密着した植物たちとの関わりの長い歴史が、刻み込まれているのかもしれませんね。
【藍が織りなす”発酵”いろいろ 神田藍日記シリーズ バックナンバー】
0: 藍が育む「自然と人間と地域の発酵関係」とは? ~神田藍プロジェクト
1: 神田藍日記7月 ~人と自然と~
2: 神田藍日記8月 ~植物と街の記憶~
3: 神田藍日記9月 ~自然界のグラデーション~
4:神田藍日記10月 ~育まれる藍と街~
5:神田藍日記11月 ~育つ場ごとに多様な花色へ~ (現在の記事)
6:藍が織りなす”発酵”いろいろ ~土と微生物と、めぐる藍~ 神田藍日記12月
【うつくしきこと:「ジャパンブルー・藍」シリーズ】
日本の美と微生物 1 「ジャパン・ブルー 藍のはじまり」
日本の美と微生物 2 自然と人と、藍のうつくしさ