東京・伊豆諸島の特産品「くさや」
毎月23日は、2(ニュウ)と3(サン)で乳酸菌の日。このユニークな記念日にあわせて、毎月、乳酸菌にかかわるさまざまな話題をとりあげています。夏まっ盛りの7月はビールのおいしい季節。ビールにあう和のつまみといえば干物……と少々強引な展開ではありますが、今回はこの干物界で鮮やかな個性を放つ伝統食品、「くさや」をご紹介したいと思います。
このくさやは、東京の伊豆諸島の特産品として知られる干物です。ムロアジやトビウオなどの新鮮な魚を「くさや液」と呼ぶ伝統の漬け汁に浸して干し上げます。その歴史は古く、すでに室町時代から島民の厳しい生活の糧としてつくられてきたようです。
くさやの個性的な風味と旨みの秘訣はこのくさや液にあります。かつて島々では塩はとても貴重な存在。魚を塩漬けにする際、使い残しの塩水を何度も使っていました。すると、その塩水が発酵し、独特の風味と優れた保存性を生みだすようになったのです。
おいしさの秘訣は、変わり種の乳酸菌
このくさや液の中でなくてはならない役割を果たしている微生物がいます。「くさや菌」とも呼ばれる乳酸菌をはじめとする微生物たちです。多くの乳酸菌は酸性の環境を好みますが、このくさや菌はアルカリ性でもよく育ちます。この変わり種の乳酸菌がくさやの豊かな香りを生みだし、保存にひと役買っているのです。
一般的に干物では保存性を高めるために塩分を強めにしますが、くさやの場合はそれほど高くなく塩分濃度は6〜8%といわれます。
塩味を控えめにできる分だけ魚の旨みが際立つというわけです。また、アルカリ性なので、「ヘルシーな干物」といえるかもしれませんね。
世界臭い食べものランキング5位
さて、「個性的な風味」と表現してみましたが、誰もが感じる率直なくさやの特徴はやはり「臭い」でしょうね。
発酵学の大家、小泉武夫先生による「世界臭い食べものランキング」でも堂々5位に選ばれています。その名の由来には、「臭い魚」が転じて「くさや」になったという説もあります。
世界臭い食べ物ランキング
1位 シュールストレミング(スウェーデン)
2位 ホンオフェ (韓国)
3位 エピキュアーチーズ(ニュージーランド)
4位 キビヤック (北極圏)
5位 くさや (日本)
出典:『発酵は力なり~食と人類の知恵』(小泉武夫著)
実際食べてみると、人によっては敬遠したくなるようなそうとうの匂いです。けれども、その匂いが鼻から抜けると、あとから深みのある香ばしい旨みが広がります。慣れてしまえば、独特の匂いもおいしいワインの余韻のような気がしてきます。考えてみれば、美食の国、フランスで重宝されるブルーチーズだってそうとう“個性的な匂い”ですよね。匂いだけで敬遠していては、もったいないおいしさです。
ただし、くさやの匂いは焼くといっそう際立つので、家庭で調理するのはあまりおすすめできないかも。あらかじめ焼いて小分けしたものが瓶詰めで売っていますので、まずはこちらで味わってみるのもよいかもしれません。
なかなか思うように旅に行けないこの夏、伊豆諸島の青い海原を思い浮かべながら試してみてはいかが?
Reference:以下の情報を参考に作成しています
https://niijimakusaya.com/free/niijimakusaya3
https://www.saltscience.or.jp/symposium/4-fujii.pdf
『発酵は力なり~食と人類の知恵』(小泉武夫著, 日本放送出版協会)
【バックナンバー】
こんなところにも乳酸菌!① 「発酵」と「腐敗」はどう違う?
こんなところにも乳酸菌!② 個性的な風味の秘密は「くさや菌」 (現在の記事)
こんなところにも乳酸菌!③癒される甘さ、夏の終わりに甘酒
こんなところにも乳酸菌!④ 牛たちも大好き、牧草の漬物
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