微生物のこと
2022.09.27

地球をめぐる微生物の物語4:炭素循環から知る、植物と微生物の共生関係

土壌・微生物・植物

「地球をめぐる微生物の物語」の最終回は、陸上での炭素循環がテーマです。私たちの目の前で繰り広げられているこの循環において、土壌中の微生物たちが欠かせない役割を担っています。そればかりでなく、最近の研究によって、土の中における植物と微生物との驚くべき関係が次々と明らかにされています。 

 

炭素を循環させる土の中の微生物たち

私たちは、地上の自然というと、森林や草原などに目がいきがちで、足元の土を意識することはなかなかありません。しかし、いま目の前にある自然は、太古の時代に土から始まり、やがて地上へと広がってきたものなのです。陸地の生態系において土壌中の生物が果たす役割は大きく、最近の研究によってその存在はさらに注目を集めています。 

それは炭素循環においても同様です。大気中にある二酸化炭素のうち約6割は土壌から放出されるものです。さらに、地球上の土壌には大気の23倍もの炭素が貯蓄されているといわれます。 

陸上の炭素循環は、森林をはじめとする植物たちの光合成によってスタートします。太陽エネルギーを利用して大気中の二酸化炭素を取り込み有機物をつくるのです。この有機物から生物たちの食物連鎖が始まり、炭素も陸上の生態系の中で循環していきます。 

そして生命を終えた植物や動物が有機物として土壌に蓄積し、微生物たちによって分解されて再び二酸化炭素がつくられ、大気中へと放出されます。また、分解されずに残った有機物は長い時間をかけて土壌炭素として蓄積されます。 

これが陸上における炭素循環の流れです。もちろん、私たちヒトも、この自然の大きなループの一部分であることはいうまでもありません。 

土・微生物・植物

もしも地球上に微生物がいなかったら…… 

土壌中の微生物たちは、炭素ばかりでなく、窒素の循環においても鍵となる役割を果たしています。 

窒素は、三大肥料の1つに数えられるように植物の生育にとって欠かせない元素。私たちヒトをはじめ動物にとっても、たんぱく質を構成するなど生命の根源ともいえる元素です。その一方で、大気の約8割は窒素で占められているように、まさに地球上にはあふれるようにある存在でもあります。 

ところが……なのです。じつは植物や動物は目の前に存在する大気中の窒素を直接取り込むことができません。

そこで活躍するのが土壌中の微生物たちです。根粒菌や放射菌といった細菌が大気中の窒素をせっせと取り込み、アンモニウム塩などの窒素化合物をつくります。そして、これら土壌中の窒素化合物が植物の根によって吸収され、食物連鎖とともに生態系の中を循環していくのです 

このようなサイクルは「窒素循環」と呼ばれ、炭素循環と同様に地球上の生命をめぐる壮大なメカニズムとして知られています。 

 

植物と微生物による土の中の共和国

土壌中の微生物たちは、窒素化合物ばかりでなく、植物に有用なさまざまな栄養分や物質を生産しています。よく知られた実験ですが、微生物が豊富な土と、殺菌して微生物を取り除いた土でそれぞれ植物を育てた場合、前者の方が植物の生育がよく病気にもかかりにくいことがわかっています。 

最近の研究では、植物と細菌たちはもっと積極的な共生関係にあり、土の中で精緻な世界を築き上げていることがわかっています。植物の根のまわりには特定の細菌が集まり、「根圏」と呼ばれる共和国を形づくっているのです。 

根のまわりに集まった細菌は、その植物に有用な栄養分や物質を生産します。植物はそれらを根から吸い上げます。その対価として植物たちは炭水化物などの成分を根から滲出(しんしゅつ)させ、細菌たちに餌を与えているのです 

植物が光合成で生産する炭水化物のうち、なんと3040%もがこの滲出液に費やされているという研究もあるそうです。植物にとって、微生物たちがいかに大切なパートナーであるかがわかります。 

そればかりでなく、植物と細菌はさらに緻密なコミュニケーションを図っていることが明らかにされています。 

たとえば植物の葉が病原体から攻撃を受けたとします。すると、それを察知した植物は特定の化学物質を含んだ滲出液を根から出し、細菌たちにシグナルを送ります。それを受信した細菌は病原体を防ぐ成分を生産し、植物に受け渡すというのです。 

 

著名な地質学者であるデイビッド・モントゴメリーは著書『土と内臓』の中で、この植物の根と細菌の関係は、私たちのからだの中で繰り広げられている腸と腸内細菌の関係によく似ているというとても興味深い示唆を示しています。 

 

土・微生物・森・きのこ

菌類のネットワークは、植物にとってのインターネット?

土壌中の微生物における一大勢力に菌類がいます。私たちが日頃食べているキノコは、この菌類の代表的な仲間です。「あの大きなキノコが菌類?」と不思議がる人がいるかもしれませんが、キノコは植物にたとえると果実や花にあたる部分であり、菌類としてのその本体は土や枯れ木の中に張り巡らされた菌糸にあります。 

この菌糸のネットワークは地球上でも最大の生命体といわれ、時には地下に数kmにも及ぶ網目を張り巡らします。肥沃な土地では、ティースプーン1杯ほどの土壌に800mもの菌糸が含まれることがあるそうです。 

植物とこの菌類たちは細菌と同じような共生関係にあり、植物の根と菌糸はまさに有機的に結びついて地下に緻密で広大なネットワークを築き上げています。菌糸は、植物の根の延長部分として土壌の中の細部にまで入り込み、栄養分を吸い上げ、その対価として根から養分を得ているのです。 

この菌糸のネットワークは、植物たちのコミュニケーションにおいても重要な役割を果たしているのではないかといわれています。 

 

最近の研究では、植物たちは根を通じてさまざまな情報をやりとりしていることが明らかになっています。 

もうすぐこんな病気が流行りそうだ、今年の春は雨が少ない、森の向こうで伐採が始まっている……。化学物質のやりとりばかりでなく電気信号まで駆使して、こんな会話を行っているというのです。 

そして、この根と根をつなぐコミュニケーションのネットワークとして菌糸が活躍しているといわれています。そのネットワークをインターネットのWWWWorld Wide Web)にたとえて、「Wood Wide Web」と呼ぶ研究者もいます。 

 

土・微生物・森

私たちが森に足を踏み入れると、深閑とした静けさに包まれますが、じつは足元の土の中では植物たちのうるさいほどの言葉が飛び交っているのでしょう。今後研究が進めば、さらに驚くような植物と微生物との関係が明らかになってくるはずです。 

 

さて、陸上の炭素循環を語っているうちにずいぶん話題が広がってしまいました。この炭素循環ばかりでなく、地球のメカニズムを生物の視点から突き詰めていくと、いずれも小さな微生物にたどり着くことはとても面白いことだと思います。植物も、人間も、微生物の存在なくしては生命を維持することはできないのです。今回のコラムをきっかけに、私たちのかけがえのないパートナーである微生物たちへの関心を高めてもらえれば幸いです。 

 

 

参考文献・サイト 

土と内臓 微生物がつくる世界』(デイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー著)
『樹木たちの知られざる生活』(ペーター・ヴォールレーベン著) 
https://www.rd.ntt/se/media/article/0001.html 

 

【バックナンバー】

地球をめぐる微生物の物語1:雲にのって空を旅する微生物たち
地球をめぐる微生物の物語2:炭素循環と微生物たち
地球をめぐる微生物の物語3:微生物たちが主役を担う!?海の中の炭素循環
地球をめぐる微生物の物語4:炭素循環から知る、植物と微生物の共生関係 (現在の記事)

 

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片倉 さとし

片倉 さとし

コピーライターの本業の傍ら、ときどき“いきものライター”として魚をはじめ生物系の記事や書籍を書いています。免疫力を高めると言い訳して、週末はサーファーとして毎週海へ。KOSMOSTにかかわるようになって微生物の本を読みあさり、最近、毎朝スムージーを飲むようになりました。 -------- Q. 「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. 酒場で迷ったときは、蒸留酒よりも醸造酒を選ぶこと。 Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A. サーフィン。あまり熱心ではないヨガ。 ------- 🦠 片倉さとしの記事一覧

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