微生物のこと
2021.10.23

こんなところにも乳酸菌!⑤ なれずし~お寿司のルーツをたどっていくと……

鮒鮨・熟れ鮨・乳酸菌

魚と飯を重ね、乳酸菌で発酵 

毎月23日は何の記念日か知っていますか? 2(ニュウ)と3(サン)ということで「乳酸菌の日」なのですね。そこで毎月、乳酸菌にちなんだ話題をピックアップしてこの日にご紹介しています。今回とりあげるのは、収穫の秋ということで、お米にかかわる発酵の話。「魚の漬物」ともいえるユニークな伝統食品、「なれずし」(熟れ鮨)についてです。 

じつは「なれずし」は、日本の食文化を代表するお寿司のルーツといわれる非常に歴史のある食べものなのです。 

この「なれずし」とは、塩漬けにした魚と炊いた米をあわせて長い時間かけて発酵させたもの。滋賀県の鮒(ふな)鮨、和歌山県の秋刀魚の熟れ鮨などがよく知られています。その発酵には、乳酸菌をはじめとする微生物たちが大活躍しているのです。 

 

たとえば鮒鮨の場合、琵琶湖で獲った二ゴロブナなどを春に塩漬けします。さらに夏の土用の頃に、塩漬けした魚と炊いた飯を重ねて本漬けします。そのままじっくりと漬け込んで保存し、翌年のお正月頃から食べ始めます。 

この漬け込んでいる間に、天然の乳酸菌が飯を発酵させて乳酸をつくり、飯や魚全体を酸性にして雑菌の繁殖を抑え保存性を高めます。さらに魚のタンパク質の一部がアミノ酸に変化してうま味も増すのです。 

 

鮒鮨・熟れ鮨・乳酸菌

奥行きのある深い味わいと匂い 

さて、そのおいしさですが、魚のうま味、乳酸などの酸味、飯の甘味が複雑に響きあってクセになりそうな独特の味わいがあります。発酵学の大家、小泉武夫先生は、鮒鮨のことを「奥行きのある深い味わいと匂い」と絶賛しています。 

けれども気になるのはその匂いでしょう。そうとう個性的というか、インパクトは絶大。個人的には、日本でもいちばん臭い食べものではないかと思っています。初めて試してみる人は、それなりの覚悟が必要かもしれませんね。 

 

「なれずし」の特徴は、保存性を高めて魚のうま味を増すばかりではありません。微生物たちの発酵によってビタミン類など人間のからだに役立つさまざまな成分が生成され、栄養面でも貴重な食べものなのです。なかでもよく知られているのが、乳酸菌がつくる乳酸による整腸作用です。

滋賀県で行われた鮒鮨にかかわる調査では、地域の人々からのたくさんの回答が寄せられています。効能として上位を占めているのは「腸が整う」「胃がすっきりする」といったものであり、そのほかにも「疲労が回復する」「風邪に効く」といった声も多くあります。 

薬が乏しかったはるか昔、長期保存できる「なれずし」は薬的にも食されてきたのでしょう。微生物の力を巧みに利用してきたその生活の知恵には驚きを感じます。 

 

海を渡って伝えられた食文化 

「なれずし」の起源は、中国の南西部や東アジアといわれ、すでに紀元前の時代からつくられてきました。それがどのようにして生まれたかは定かではありませんが、貴重の米を使ってまでつくるのですから大切な食べものだったに違いありません。 

冷蔵庫などないあの時代、食べものを長期間保存するということは命にもかかわる重要な技術だったのでしょう。現地では、魚介ばかりでなく、獣や鳥などの「なれずし」もつくられています。 

日本には、稲作の文化とともに伝わってきたと考えられます。縄文や弥生の時代に渡来したという説もあります。 

そこからずっと時代が下り、室町時代になると発酵の期間を短くしてご飯も一緒に食べるようになりました。やがて酢を加えるようになり、現在のにぎり寿司の原型ができあがったのは江戸時代のことです。 

魚のうま味と酢飯の塩梅が絶妙なお寿司のおいしさは、歴史をたどっていくと天然の乳酸菌がルーツともいえるのですね。 

にぎり寿司

 参考文献・サイト
『発酵は力なり 食と人類の知恵』(小泉武夫著)
 https://www.mizkan.co.jp/sushilab/manabu/0.html 

 

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片倉 さとし

片倉 さとし

コピーライターの本業の傍ら、ときどき“いきものライター”として魚をはじめ生物系の記事や書籍を書いています。免疫力を高めると言い訳して、週末はサーファーとして毎週海へ。KOSMOSTにかかわるようになって微生物の本を読みあさり、最近、毎朝スムージーを飲むようになりました。 -------- Q. 「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. 酒場で迷ったときは、蒸留酒よりも醸造酒を選ぶこと。 Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A. サーフィン。あまり熱心ではないヨガ。 ------- 🦠 片倉さとしの記事一覧

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