自転車トラック競技で活躍中の梶原悠未さん。2021年は東京五輪・世界選手権・チャンピオンズリーグに出場し、日本だけでなく世界に活動の場を広げています。欧州と日本を拠点にトレーニングを行っています。23年5月の全日本選手権では5種目優勝、6月アジア選手権では4冠を達成しました。その母であり、マネージャーとして食事の管理などに携わる梶原有里さんの連載の第3回目。今回は子育てで重視してきたポイントについて語ってくださいました。 (2022年5月30日公開、2024年3月29日更新)
[ 梶原有里、世界への窓 第3回 ]
世界的アスリートの子育てポイントは「体験」と「興味」
~アスリートのマネージャーとして、母として考える、ウェルネスのかたち~
2022年5月8日、悠未はフランスでのステージレースを終え、現在はカナダへと移動し、次のレースの準備をはじめています。今でこそ世界中を一人で飛び回っている悠未ですが、実は、小さい頃は私の1メートル以内から離れられないような子でした。しかし、無理やり離れさせるようなことは決してしませんでした。色々な体験をする中で楽しいことが見つかれば自然と離れていけると考え、小さい頃から様々なことを一緒にしてきました。
たとえば、昔は毎日のように悠未を児童センターに連れていきました。そこでは「おもちゃを取っておいで」と話しかけます。すると、おもちゃに興味をもって、少しだけれど親元を離れて取りにいきますよね。こうした小さな練習をずっと積み重ねていました。
悠未が今でも大好きなスイミングは、生後11ヶ月頃から通いました。水に対する恐怖感をなくすために、5〜6ヶ月頃からちょっとした練習をはじめました。それは、シャワーをするときに「息を止めてね」と声をかけて、わざと顔に水をかけて慣れさせるというものです。
もちろん、最初は驚いてアパアパしているのですが、「息止めてないからだよ」と伝えると意外と理解をして、段々とできるようになっていきます。こうした工夫もあって、はじめてのプールでも悠未は水を怖がることなく、顔に水がかかっても平気な様子で、浮き輪をつけて一人で楽しそうにばちゃばちゃと遊んでいました。
この時期は「嫌がるからやらない」という以前に、わからないうちから「体験してみること」を重視していました。もしお子さんが水を怖がるようでしたら、それは、あまりに大事に育てすぎていたり、水に恐怖感を与えるようなお風呂での洗い方をしていたりするからかもしれません。
物心がつくころには、悠未の性格に寄り添った対話を心がけました。社交的で行動派の私とは異なり、悠未はもともと慎重で完璧主義なところがあり、準備が整ってから行動しないと恐い、といったタイプでした。
そこで、年長の頃に小学生とのスキー教室があったときも、「行っておいでよ、楽しいよ!」と私が背中を押して、「うん」と悠未にまず納得してもらいます。「うん」とは言ったものの、いざ2泊のツアー当日になると「お母さんと一緒にいたい!」とバスに乗るときから大泣きをしたりするのですが、でも自分で決めたことだからと参加をするわけです。
その時の悠未は、結局は、半日スキーをしたら高熱がでてしまい、みんなに看病されながらそのまま帰ってきました。本人にとって、初めての体験の多くは負担も大きかったことと思います。ただ、悠未が「自分で決める」という形で私が様々な機会をどんどん設定し、泣きながらも行くという体験をずっとつづけてきたからこそ、今、一人で世界を飛びまわることができているのではと考えています。
そうした意味では、スイミング教室をはじめた頃から人や大人に慣れていく経験が必要だと考え、「他の人や大人とコミュニケーションをとること」を主な目的に、信頼する近所の人にピアノ教室に通わせた時期もありました。
やはり色々な体験をまずしてみることが大事だと思います。「この子はだめだからやめておこう」ではなく、苦手なものをどうすれば体験できるようになるかを、いつも考えていました。
小学校にあがる前からは、自分の行動や気持ちを言葉にする習慣づけを心がけました。習い事をただやらせるのではなく、「今日これができた」「先生がこんな話をした」「ここが楽しかった」など、自分の「興味」について話す時間を毎日とるわけです。
小学校にあがる頃には、朝、家をでてから家に帰るまでの出来事を、時系列で話せるようになっていました。友達の発言やその時の気持ちなどを事細かに説明してくれるのです。こうして習慣をつけることで、それだけで悠未がその日どう過ごしてきたかもわかりますし、興味や関心がどこにあるかも把握できるようになりました。
次回は、子育てのときにしていた食事面での工夫を中心にお伝えしていきたいと思います。
執筆:梶原有里 / Kajihara Yuri
プロフィール
自転車競技で活躍中の梶原悠未選手の母であり、マネージャー。2児の母として子育てに取り組むとともに、長女、悠未さんのサポートを通じてスポーツ・マネジメントを学ぶ。現在は、悠未さんのマネージャーとして、練習のサポート、取材の対応、そして毎日の食事の管理に携わる。スポーツフードマイスター。アスリート栄養食インストラクター等の資格を取得。JADP認定メンタル心理上級カウンセラー。
https://www.twiter.com/
https://www.instagram.com/yurikajihara/
【バックナンバー】
[梶原有里、世界への窓 第1回] 銀メダルからの挑戦
[梶原有里、世界への窓 第2回] マネージャーとして母として“食の大切さ”を思う日々
[梶原有里、世界への窓 第3回] 世界的アスリートの子育てポイントは「体験」と「興味」(現在の記事)
[梶原有里、世界への窓 第4回] 世界的アスリートを育てた食事法
[梶原有里、世界への窓 第5回] 世界的アスリートが実践する海外遠征時の食事法
【梶原有里 イベント・レポート】
自転車アスリートの食事を梶原有里さんに学ぶ ~KOSMOST発酵ダイアログJANレポート
【梶原有里さん、梶原悠未さん インタビュー連載】
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートのライフスタイル(3)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(1)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(2)
自転車競技世界女王・梶原悠未 トップアスリートの食卓(3)