乳酸菌がつくる、乳酸のいろいろな働き
毎月23日は2(ニュウ)と3(サン)で乳酸菌の日。ということで、この記念日にあわせて毎月、乳酸菌にかかわる話題をとりあげています。今月は、乳酸菌の名称の由来にもなっている「乳酸」をクローズアップしたいと思います。この乳酸、耳にすることは多いのに、意外にどんなものなのか知っている人は少ないのではないでしょうか?
乳酸とは、糖質が代謝・分解されてできる生成物のこと。わかりやすく言うなら、糖からつくられる酸性の成分です。クエン酸や酢酸、リンゴ酸などと同じ有機酸の仲間であり、酸性を示し、これらの名称からも連想されるように味覚的には酸っぱいのが特徴です。
乳酸菌は、炭水化物などの糖を食べて、その代謝物として乳酸をつくります。キムチなど乳酸菌発酵の漬物は日数がたつと酸っぱくなるでしょう。これは、乳酸菌たちの働きによって乳酸などがたくさん生産された結果なのです。
この乳酸には、さらに大きな役割があります。それは、食べものを酸性にすることによって雑菌の繁殖を抑え腐敗を防ぐということ。漬物やチーズ、ヨーグルトなどの発酵食品が長い間保存できるのも乳酸の働きによるものなのです。
乳酸菌がつくる乳酸は、私たちの腸内でも大活躍しています。腸内を酸性に保つことで悪玉菌の繁殖を抑え、腸を整えてくれます。最近、免疫力の向上やコレステロールの低減など、乳酸菌のさまざまな働きが注目されていますが、これらの作用にも、乳酸をはじめとする乳酸菌の生産物質が深く関わっているのです。
乳酸は、筋肉や脳のエネルギーにも
スポーツ好きの人は、乳酸についてまた違うイメージをもっているのではないでしょうか? 乳酸は、かつては「疲労物質」とも呼ばれていました。私も学生時代、部活で走りまわって足の筋肉が疲れてくると、「乳酸が溜まってきた」とつぶやいていたことを思い出します。
この通説は、激しい運動をした後に乳酸がからだに蓄積されることから言われはじめたものです。筋肉は、エネルギーを得るために、グリコーゲンという形で蓄えている糖を分解して乳酸をつくります。しかし、最近では、この乳酸はエネルギーとして再利用されていることがわかっています。
そればかりでなく、乳酸は脳のエネルギーとしても注目されています。運動量が増えた時など、脳は糖にかわって乳酸を利用しているというのです。筋肉に、脳に、エネルギー源として乳酸は大活躍しているわけですね。
このように大切な役割をもつ乳酸を、乳酸菌たちは私たちの腸内でせっせと生産してくれています。この先研究が進めば、乳酸菌と乳酸のさらに多様な働きが明らかになってくるでしょう。
参考文献・サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-045.html
「Tarzan ターザン No.811」(6/10 2021)
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