豊かな味わいや風味で、私たちの食生活をおいしく彩ってくれる発酵食品。その発酵界の伝説的存在であり、現在もプリンセスとして君臨するのが乳酸菌です。そんな乳酸菌を切り口に、「食」を通じた私たちと微生物の関係を紹介します。
「発酵」と「腐敗」はどう違うのでしょう?
「発酵」とは、微生物の働きによって食品などの物質が変化することをいいます。では、「腐敗」との違いはどこにあるのでしょうか? じつは、発酵も腐敗も基本的には同じこと。その変化が人間にとって都合がよければ発酵、都合が悪ければ腐敗と呼ぶのです。
なかにはわが国の鮒ずしやクサヤのように、「?」と思う強烈な個性を持つ発酵食品もありますが、私たち人間は、長い歴史の中で失敗を繰り返しながら、発酵と腐敗を選り分け、上手に利用してきたのですね。
この発酵の歴史は、有史以前、牧畜の始まりとほぼ時を同じくするという説があります。
ということは、牛などの乳から乳酸菌の力でつくるヨーグルトやチーズは最古の発酵食品? その追究はさておき、乳酸菌が発酵のパイオニア的な存在であることは間違いないでしょう。
日本の文化が育んできた発酵食品
わが国にも乳酸菌の力でつくる発酵食品がたくさんあります。ぬか漬け、たくあん、野沢菜漬け、しば漬け……。全国各地に古くから伝わる漬物には、その土地固有の乳酸菌とともに育て守られてきたものが数多くあります。
また、野菜ばかりでなく、先にあげた鮒ずしやクサヤといった水産物も乳酸菌による発酵食品です。
乳酸菌は、食品ばかりでなく、お酒づくりでも大活躍しています。日本酒の伝統的な製法である「生酛(きもと)造り」では、雑菌による汚染を防ぎ、大切な酵母を増殖するために、乳酸菌をじっくり時間をかけて育てます。そうして独特のコクと芳醇な香りが生まれるのです。
おいしく、香ばしく。乳酸菌の3つのパワー
このような乳酸菌発酵には、主に次の3つの効果があります。
- おいしく、香りよく
乳酸菌がつくる香りや味の成分によって、うまみが増したり、豊かな風味が生まれます。 - 長く保存できる
乳酸菌が生成する有機酸や抗菌物質によって腐敗を防ぎます。 - 口あたりなど物性がかわる
ヨーグルトのように粘り気を出したり、物性を変化させます。
つまり、乳酸菌は、長期的な保存を可能にするばかりでなく、それまでにない魅力的な味わいや風味を生み出してくれるのです。
さらに最近、乳酸菌発酵に注目が集まっている理由が、私たちのからだの中での働き。乳酸菌がつくる成分には、整腸作用をはじめ、コレステロールの低下、免疫力アップなどの効果があるといわれています。
乳酸菌はどこにすんでいる?
さて、最後に素朴な疑問ですが、乳酸菌はいったいどこにすんでいるのでしょうか?
その答えは、ある意味、私たちの身のまわりのいたるところにいるといってもよいかもしれませんね。
ほとんどの野菜には自然の乳酸菌がついています。ドイツのザワークラウトなどの乳酸発酵漬けは、基本的には塩水に漬けるだけで野菜についている乳酸菌が増殖し、あの独特の酸っぱい風味が生まれます。
日本のぬか漬けをテーマにした研究によると、新しいぬか床では最初、他のさまざまな菌が多くを占めています。それが時間の経過とともに乳酸菌が現れ、やがて最大勢力になります。100年以上も使われているぬか床を分析したところ、やはりたくさんの乳酸菌が見つかったそうです。
おいしい漬物やお酒を味わうとき、少しだけでも私たちのまわりにいる微生物の存在を意識してみると、暮らしの感覚も変わってくるかもしれませんね。
【「“新”乳酸菌生活のススメ ─知って、食べて、育てる」 シリーズ】
① 誰もが知っている乳酸菌の意外に知られていない素顔とは?
② 発酵界のプリンセス!?乳酸菌のおいしい働き (現在の記事)
③ 腸にも、口の中にも!?私たちのからだと乳酸菌
④ 健康も、しあわせも?からだと細菌の驚くべき関係
⑤ 腸内細菌との上手な付き合い方 〜
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