私たちの口腔(口の中)には、腸と同じようにたくさんの細菌がすみ、それらは腸内フローラと同様に「口内フローラ」と呼ばれている。九州大学大学院医学研究院口腔予防医学分野の山下喜久教授と研究グループは、福岡市近郊で10年以上にわたって、住民たちの口内フローラと健康について追跡調査を行っている。その結果、とても興味深い傾向が判明してきた。口内フローラのバランスが、虫歯など口腔の健康ばかりか、全身の健康状態にも影響を及ぼしている可能性があるというのだ。
山下教授の研究によると、口内フローラのバランスが整っているグループは口腔の健康状態が良好で、逆にアンバランスなグループでは、口腔だけでなく全身の健康状態も悪く、高齢期では肺炎死亡率が高くなることがわかった。さらに、口内フローラが不健康な人の年代別割合をみると、40代が約40%なのに対し、50代になると70%近くにまで上昇し、このライフステージにおけるケアの重要性が浮かび上がっている。
また、このような口内フローラはほぼ2歳までに確立されると考えられ、良好なバランスを形成するためには、子どもうちのわずか数年が重要になる。
山下教授と研究グループは、日常的な行動が口内フローラに与える影響も調べている。たとえば、コーヒーの成分は、細菌たちの多様性に変化をもたらすことがわかった。また、歯磨きをしなくても(2日間)、キシリトールガムを噛むだけで細菌の増加を抑えられるという。
最近、腸内フローラでは、その種類やバランスを検査し生活改善などのアドバイスを提供してくれるサービスが注目されている。山下教授らの研究がさらに進めば、歯医者さんに行って虫歯チェックのついでに口内フローラの検査を受ける日がやってくるかもしれない。
Reference:以下の情報を参考に作成しています
九州大学 Research Close-Up (2020年8月3日) より
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/research/close-up/yoshihisa-yamashita(九州大学Webサイトへのリンク)
[ ここに注目 by KOSMOST編集部 ]
口内フローラは、くらしの質にも大きく関係しています。口の中にいる微生物たちがからだ全体の健康にも関わっているという研究はとても興味深いと思います。
たとえば脳の働きとの関係など、腸内細菌についても次々と驚くべきことが明らかにされています。今後、山下教授らの研究が進めば、さらにびっくりするような新発見があるかもしれません。
このような近年の細菌研究の進歩は、革新的な検査技術の登場によって支えられています。そうはいっても、山下教授と研究グループは、特定の地域で10年以上にもわたって住民たちの追跡調査を続けています。どんなに技術が進歩しようとも、研究者たちの地道な取り組みが重要なこと、それがすばらしい成果に結びつくことを改めて知りました。
KOSMOSTでは、この口内フローラと美容との関係を紹介する記事も掲載しました。あわせてご覧ください。