「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。今回のお話は、ポーランドの味噌汁(?)ともいわれる、発酵ライ麦でつくる「ジュレック」。やさしい酸味がクセになりそうな国民的なスープなのだそうです。
ワルシャワの旧市街を歩く
第2次世界大戦で焼け落ちたポーランドの首都ワルシャワ。その後、時間をかけて元の姿に再建されたそうです。聖アンナ教会の鐘楼を昇ると、王宮前の広場がミニチュアのように見下ろせます。
再建された旧市街の景観はまるで中世にタイムスリップしたようで、ピアノの詩人と呼ばれるショパンを産み、地動説を唱えたコペルニクスが育った街なんだなと、思わす感慨にふけってしまいました。
さて、今回ご紹介するのは、ポーランドの味噌汁とも言われている(とかいないとか)、発酵したライ麦のスープ「ジュレック」です。
どんなレストランにもあるジュレック
ポーランドは、中央部のワルシャワから南部の古都クラコフを巡りました。いくつもレストランに入りましたが、必ずと言っていいほどメニューに載っているのが、ライ麦の酸っぱいスープ「ジュレック」でした。
ワルシャワのかなりカジュアルな「食堂」といった雰囲気のお店メニューには「ジュレック」という料理名ではありませんでしたが、「ライ麦を発酵させたサワードウ(ライ麦と水を混ぜて乳酸菌などで発酵させたもの)をベースに、ロースト肉、スモークしたリブと乾燥マッシュルーム、ハーブはシソ科の甘い香りがするマジョラムを入れて作った、ポーランド伝統の酸っぱいライ麦のスープ」と書かれているスープを発見。もちろんオーダーしました。
一般的な盛り付けは、スープにポーランドならではの「ビアラ・キルバサ」というソーセージ、ライ麦のパンにゆでたまごを乗せたワンプレート。これだけでしっかりとした一食になります。
スープを口にすると、なるほど酸っぱい。とはいえツンとした酢の酸っぱさではなく、まろやかな旨味を伴った発酵ならではの酸っぱさです。そこに他の具材からの出汁も更に溶け出して、奥深い味に仕上がっています。決して濃厚なスープではないのですが、なんだか元気になるような気がするおいしさでした。
ライ麦を発酵させたザクワス
本格的なポーランド料理のレストランに出かけた時も、やはりおすすめは「ライ麦の酸っぱいスープ」。すすめられると断れない性格です。
こちらのジュレックは、コースの流れのスターター/スープのセクションの一品。パンとゆで卵はなく、ソーセージは輪切りになったものがあらかじめスープに入っています。味はまさにあのライ麦の酸っぱいスープ。でもちょっと塩味が少な目だったかもしれません。
さて、ジュレックのベースとなるライ麦を発酵させたものは「ザクワス(酸っぱい)」と呼ばれています。ライ麦と水を合わせて、にんにくを入れて、5日から10日間発酵させます。スパイス・ハーブを入れることもあるそうで、その配合は造り手によって違うそうです。これは「手前みそ」のようなものでしょうか。とは言え、最近はポーランドのスーパーマーケットではどこでもボトル入りのザクワスが手に入るそうです。
パンをくりぬいてボールにするジュレック
旅行ガイドなどで紹介されているジュレックには、上の写真のようにパンをくり抜いてボールにして、スープ、ソーセージ、たまごを入れているものもあります。すべての要素がオールインワンになっていて迫力もあります。たしかに旅行客に喜ばれるビジュアルですね。
ザクワスにつかうスパイスやハーブが造り手によってさまざまなように、ジュレックの味付けも家庭によって違えば、盛り付けも様々。ポーランドに行くことがあれば、いろんなジュレックをたのしんでみてくださいね。
参考:https://www.polonist.com/polish-zurek-soup/
(All photos by Atsushi Ishiguro)