醤油というと日本では大豆が主な原料ですが、アジアの国々では魚を発酵させた魚醤が主流のようです。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんの今回のコラムは、そんなアジアの魚醤がテーマ。わが国の魚醤も紹介しています。
どこからともなく漂ってくる魚醤の香り
東南アジア、特にインドシナ半島の国々を旅していると、どこからともなく漂ってくるのが、魚介類を塩につけて発酵させてつくる「魚醤」の香りです。普段日本で使っている醬油は大豆を原料にしたものですが、魚醤は魚介類を使っているので独特な香りがします。
魚醤にはグルタミン酸、リジン、アルギニン、イノシン酸なども含まれています。醬油に含まれている旨味成分はグルタミン酸が主ですから、魚醤の場合にはより複雑な旨味ということになります。
以前ベトナムのニョクマムについて書きました。今回はミャンマー、ラオス、タイではどんな魚醤を使っているのかご紹介します。
ミャンマーの「ンガピャーイェー」
冒頭の写真は、ミャンマー最大の都市ビエンチャンで食べた、シャン族が起源の「シャンヌードル」です。朝ごはんとして定番の米麺を使った麺料理で、パクチーや唐辛子、それに魚醤を自分なりに入れて好みの味にします。
ミャンマーの伝統の魚醤は「ンガピャーイェー」。ナマズなどの川魚を原料にしているそうです。写真のものはタイから輸入されたナンプラーでした。
上はミャンマーのバガンの農家の台所。こちらにも魚醤がありました。棚の手前左の足のそばです。こちらもタイのナンプラーのようです。
「ンガピャーイェー」は、ンガピという魚を発酵させたペーストを作る際に出てくる水分が原料です。ンガピはどこのマーケットでも、味噌のように樽に入れたものを量り売りしていました。一方、「ンガピャーイェー」にはお目にかかりませんでした。ビエンチャンの料理教室でも、使っている魚醤はタイから輸入したナンプラーでした。
ラオスの「ナムバー」
ラオスでは魚醤を「ナムバー」と呼びますが、タイやベトナムから輸入されたものが主流だそうです。首都ビエンチャンの小さな食堂で食べた「カオ・ピック・セン」という麺料理もナムバーがベースになっています。
魚の団子が入ったスープに米粉の麺。そこにもやし、ミント、パクチー、にらを好きなだけ入れて、ライムを絞ります。そして魚醤はタイから輸入されたナンプラーでした。
日本でもよく見るタイの「ナンプラー」
タイの古都、「北方のバラ」と呼ばれるチェンマイで料理教室に参加してみました。そこで使われていた魚醤は「ナンプラー」。日本でもおなじみですよね。鰯をはじめ、イカやエビを使ったものなど様々な種類があります。タイ料理の基本の調味料として、タイカレー、炒め物、つけダレなど何にでも使われて、旨味がかなり増幅されます。
インドシナ半島の各地にある魚醤、実は製造方法はどれも似ています。タイで大量に生産されたものがミャンマーやラオスに輸出されて使われていることが多いんですね。
日本の魚醤「いしる」と「いしり」
日本の魚醤と言えば能登地方の「いしり(いしる)」ですよね。秋田のしょっつる、香川のいかなご醬油と共に日本三大魚醤とも言われています。いかを原料としているものを「いしり」、イワシを原料としているものを「いしる」と呼ぶようです。
いしりを使って根菜の煮物を作ってみると、旨味がたっぷりでおいしく仕上がりました。すでに旨味がたっぷり入っていることもありますが、いかの香りがして野菜だけでも格段に美味しいんです。馴染みのない方でも、もしスーパーなどで見かけたらトライしてみてくださいね。
[All photos by Atsushi Ishiguro]
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