微生物のこと
2020.10.04

誰もが知っている乳酸菌の意外に知られていない素顔とは? ~“新”乳酸菌生活のススメ① ─知って、食べて、育てる

乳酸菌と自然

日本人なら誰もが知っている、微生物のスーパースターのような存在が乳酸菌でしょう。けれども、「乳酸菌はからだによさそう」といったなんとなくのイメージはありますが、その素顔については意外に知られていないのではないでしょうか。

乳酸菌とはいったいどんな生きもの?

乳酸菌は、その名のとおり、炭水化物から乳酸をつくる細菌の総称です。棒状の「棹菌」や球状の「球菌」などいろいろなグループがあります。ヨーグルトでお馴染みのビフィズス菌も、広い意味で乳酸菌の仲間とされています。

その乳酸菌が、微生物学の始祖、ルイ・パスツールによって発見されたのは1857年のこと。けれども、人間はその存在が明らかになるずっとずっと以前から、乳酸菌を巧みに利用してきました。
その代表的な例がヨーグルトやチーズ、漬物などの発酵食品です。乳酸菌には腐敗を抑える作用があり、豊かな風味を生み出します。

乳酸菌が注目されるきっかけは不老長寿説?

このように身近な存在だったとはいえ、乳酸菌はなぜこれほどに注目されるようになったのでしょうか? それは20世紀初頭、ある科学者が唱えた「不老長寿説」の影響が大きいと思われます。

彼は、ブルガリア人に長寿が多いことに注目しました。そして、ブルガリア人が毎日のように食べるヨーグルトに乳酸菌が含まれることに着目して、独自の不老長寿説を唱えるようになったのです。

この「乳酸菌による不老長寿説」(?)の是非はともかくとして、今日までさまざまな研究が行われ、乳酸菌には整腸やコレステロールの低下、免疫力アップなどの働きがあるといわれています。

腸の中の善玉菌と悪玉菌、デブ菌とやせ菌

その一方でスーパースターであるがゆえに、うやむやになってしまっていることも多いのが残念です。

たとえば、乳酸菌は善玉菌の代表のように語られる話。私たちの腸の中にいる善玉菌の話をする場合、必ずといってよいほど乳酸菌の名前が最初に出てきます。しかし、最近の研究によると、この「善玉菌」と呼んでいるグループは全体的にはビフィズス菌が多く、乳酸菌の存在はごくわずかだといわれています。

この腸内細菌がメタボリック・シンドロームに関係しているという説もあります。腸内には「デブ菌」と「やせ菌」ともいえるグループがあり、そのバランスがメタボに関係しているというのです。そしてこの「デブ菌」のグループには、じつは乳酸菌も含まれてしまっているのです。

多様な仲間がいるからこその乳酸菌

このように腸の中の細菌の話を少ししただけでも、とても複雑な関係のもとに成り立っていることがわかると思います。

腸内細菌を善玉菌と悪玉菌に色分けするようなことは、勧善懲悪が大好きな日本人にとってとてもわかりやすい話なのですが、細菌たちの物語はそんな単純明快なものではありません。その複雑な多様性こそがポイントだといわれています。

いまふれた乳酸菌の話も、べつにスーパースターのゴシップ話をしてイメージを損なうつもりはまったくなく、このような多様性の中で乳酸菌を理解することが大切だと知ってほしいからなのです。またそれは、私たち人間と微生物の関係についても同じことがいえるかもしれません。

細菌もウイルスも同じ微生物。その違いは?

ずいぶん話が大きくなってしまったので、最後に微生物たちの身の丈にあった紹介をしましょう。

微生物とは、顕微鏡でしか見えないような微少な生きものたちのこと。ウイルスや細菌、酵母やカビといった菌類、アメーバやゾウリムシなどの原生動物などが含まれます。

マイクロスコープ

また、細菌とは、ひとつの細胞しかない、いわゆる単細胞生物です。ウイルスはさらに極小で、自分で細胞を持っていないことが細菌との一番の違いとなります。したがって、人や動物などの細胞を利用しないと自分では増えることができないわけです。

次回からは、この乳酸菌を切り口にして、微生物と私たちのからだや暮らしの関係についての話をしていきたいと思っています。

 

 


【「“新”乳酸菌生活のススメ ─知って、食べて、育てる」 シリーズ】

誰もが知っている乳酸菌の意外に知られていない素顔とは? (現在の記事)
発酵界のプリンセス!?乳酸菌のおいしい働き
腸にも、口の中にも!?私たちのからだと乳酸菌
健康も、しあわせも?からだと細菌の驚くべき関係
腸内細菌との上手な付き合い方 〜 


 

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片倉 さとし

片倉 さとし

コピーライターの本業の傍ら、ときどき“いきものライター”として魚をはじめ生物系の記事や書籍を書いています。免疫力を高めると言い訳して、週末はサーファーとして毎週海へ。KOSMOSTにかかわるようになって微生物の本を読みあさり、最近、毎朝スムージーを飲むようになりました。 -------- Q. 「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. 酒場で迷ったときは、蒸留酒よりも醸造酒を選ぶこと。 Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A. サーフィン。あまり熱心ではないヨガ。 ------- 🦠 片倉さとしの記事一覧

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