東京工業大学と株式会社ぐるなびは、日本の食文化を支える発酵をテーマとした共同研究を行っている。発酵やその過程で関わる微生物を科学的に解析することで、日本の食がもつ新たな価値を発見し、和食のさらなるブランドアップにつなげることを目的としている。
日本各地には特色のある漬物があり、その土地の風土や製法、微生物などの違いが味や香りに影響を与えていると考えられる。今回の研究では、地場野菜を使い伝統的な手法で漬け込む「ぬか漬けたくあん」に注目した。寒冷で豪雪地域である秋田のたくあん(いぶりたくあん)と、温暖で日照時間の長い愛知のたくあん(渥美たくあん)を比較し、製法や製造環境の違いが発酵微生物や成分にどのような影響を与えているかを明らかにした。
このような漬物に含まれる発酵微生物は、一般的に数種類が全体の大部分を占める。ところが、秋田のたくあんは微生物の多様性が高かった。気温が低い秋田の気候では、漬け込み前のダイコンについていた微生物がそのまま生き残ると考えられる。また、アミノ酸や有機酸などの成分も同様に、漬け込み前の状態をほぼ維持していた。
一方、比較的温暖な気候の愛知のたくあんでは、乳酸菌や好塩細菌(塩を好む微生物)が高い割合で見つかり、これら3属で50%以上を占めた。温暖なために微生物の活動が活発で、乳酸菌による乳酸菌発酵のほか、好塩細菌によるグルタミン酸の生成が行われている可能性が高いことがわかった。
今回の研究では、それぞれの気候や風土、そこに根づいた製法などの違いが、漬物の特色を生み出していることが科学的に明らかにされた。また、塩を好む微生物が、うま味成分であるグルタミン酸をつくっているらしいことも興味深い。塩漬けという伝統的な製法に、うま味を付加するというこれまで知られていなかった役割があることが示唆された。新たなアミノ酸発酵菌の研究開発の足がかりになることが期待される。
Reference:以下の記事を参考に作成しています
東京工業大学 東工大ニュース より
https://www.titech.ac.jp/news/2021/048831.html (東京工業大学Webサイトへのリンク)
[ ここに注目 by KOSMOST編集部 ]
日本では各地に伝統的な漬物があります。その味わいが、地域の風土や、文化ともいえる製法に大きく関係しているだろうということは、これまでもなんとなく感覚的に理解してきました。今回の東京工業大学による共同研究によって、それが科学的に明らかにされたわけです。
また、「塩で漬ける」という製法が、腐敗を防いで保存性を高めるばかりでなく、微生物の力でうま味を生み出す可能性があることも興味深いですね。塩を好むという菌の存在を知って、微生物の世界の奥の深さを改めて感じます。