乳酸菌たちがつくりだす有用な成分、「乳酸菌生産物質」についてシリーズでご紹介していくコラム。2回目は、そもそも乳酸菌とはどのような微生物なのかという基本的な情報をわかりやすくまとめてみました。「乳酸菌生産物質」は、共生培養という、異なる種類の乳酸菌がともに暮らす環境からつくりだされます。それを理解するためにも、まず先に、乳酸菌たちの横顔を知ることが大切になるのですね。
糖類からたくさんの乳酸をつくりだす細菌
乳酸菌といえば、私たち日本人にとってもっとも身近な微生物のひとつ。しかし、その名はあくまでも総称であって、特定の種類をさすものではありません。ブドウ糖や乳糖など糖類を分解して大量の乳酸をつくりだす細菌の総称として使われています。ヒトや動物の体内のほか、自然界にも広くすんでいて、古くから発酵食品などで利用されてきました。
一方、ビフィズス菌もかつては広い意味で乳酸菌の仲間とされてきましたが、最近では独立した種類として扱われています。乳酸菌との違いは、酸素のある環境が苦手なためにヒトや動物の腸内を主な住処にしていること、乳酸に加えて大量の酢酸をつくりだすことなどがあげられます。
乳酸菌にはたくさんの仲間がいて、その形や発酵の仕方、生育条件などによってさまざまな分類がされています。たとえば形態でいうと、乳酸球菌(丸い球状)、乳酸桿菌(細長い棒状)などの分け方があります。ちなみに、ビフィズス菌はV字がY字に分岐した特徴的な形をしたものが多く、ラテン語で分岐を意味する「ビフィダス」がその名称の由来になっているそうです。
ときどき目にすることがありますが、漬物などに利用される乳酸菌を「植物性乳酸菌」という場合があります。一方で乳製品の発酵に関わるものは「動物性乳酸菌」とも。これは、その乳酸菌の見つかった元の住処に由来する分類といえますが、生物学という視点ではほぼ意味はないようです。
というのも、どちらも生物学的には同じ仲間である場合が多いのです。一般的に植物性といわれる乳酸菌には、植物ばかりでなくヒトの腸内にすむものもあり、同じく動物性でも植物から見つかるものも多くあります。
乳酸菌の「○○株」とはどんな意味?
このほかにも乳酸菌には、「○○乳酸菌」「○○菌」「○○株」というようにいろいろな名称が使われていて、戸惑う人も多いのではないでしょうか?
これらは少々専門的になりますが、生物学的な学名に由来するものが多いようです。一般に細菌の名称は、「属 + 種」で呼ばれます。
たとえば、ヨーグルトに用いられる代表的な乳酸菌のひとつ、「アシドフィルス菌」はラクトバチルス属のアシドフィルス種で、学術的な名称は「ラクトバチルス・アシドフィルス」。
さらにやっかいなことに細菌の場合、この種名の下にさらに細かい分類があるのです。それが「株」なのですね。この「株」は、1つの細菌から増殖した菌の集まりを意味し、同じ菌種でも株ごとに異なる性質をもちます。ファミリーやグループといった枠組みで考えると理解しやすいかもしれません。
いま紹介した「ラクトバチルス属」は乳酸菌の中でも一大勢力で、これまで二百数十種の仲間が知られていました。ところが2020年、このラクトバチルス属をめぐって画期的な論文が発表され、研究者たちを驚かせました。最新のゲノム解析を行った結果、これまでの常識を大幅にくつがえす再分類が提案されたのです。
これがもし動物の世界であるなら、ノーベル賞ものの研究ではないのでしょうか? そんな新発見に未だにしばしば遭遇するのが乳酸菌の世界なのですね。
次回のコラムからは、そんな乳酸菌たちが生み出す「乳酸菌生産物質」について深く分け入っていきたいと思います。
参考文献・サイト
公益財団法人腸内細菌学会 https://bifidus-fund.jp/index.shtml
一般社団法人日本乳業協会 https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_065_493/
ヤクルト中央研究所 https://institute.yakult.co.jp/bacteria/name/01.php
【バックナンバー】
乳酸菌生産物質とは① 細菌たちがつくりだす成分
乳酸菌生産物質とは② 乳酸菌たちをめぐる基本知識 (現在の記事)
乳酸菌生産物質とは③ ヨーグルトのはじまりと乳酸菌生産物質
乳酸菌生産物質とは④ 乳酸菌生産物質のキーパーソンたち
乳酸菌生産物質とは⑤ 乳酸菌の共棲培養を育んだ情熱
乳酸菌生産物質とは⑥ 人の腸をお手本に「共棲培養」を深める
乳酸菌生産物質とは⑦ 腸内細菌学の巨人、光岡知足が唱える「バイオジェニックス」と乳酸菌生産物質
乳酸菌生産物質とは⑧ 350以上もの成分を含む乳酸菌生産物質、保湿もペットもアスリートにも?! 注目が集まる理由