二酸化炭素の出る量を減らして温暖化にストップをかけることは世界全体の課題です。じつはこの炭素循環という地球規模のサイクルには、微生物たちが欠かせない役割を担っています。そこでさまざまな視点から微生物と地球の関係を紐解いていきたいと思います。第1回目は、空気中に漂い、風にのって大空を旅する微生物たちの話。もしも私たちがミクロの世界まで見える眼鏡をかけたなら、あたりの風景は一変するはずです。
もしもあなたがミクロの眼鏡をかけたなら
微生物とは、わかりやすくいうならば、肉眼で見ることのできない小さな生きものたちのことです。どれくらい小さいのかというと、よく知られている微生物のひとつ、大腸菌の長さは2ミクロンほど。1000分の2㎜です。大腸菌が500個連なってやっと1mmというほどの極小サイズなのです。
これほど小さく軽いために、微生物たちは空気中にもたくさん漂っています。南極から都会まで、あるいは砂漠から海上まで、まさに地球上のいたるところに浮遊しています。その数は1㎥あたり10万〜100万個ともいわれ、人が密集する都会ほど数が多いそうです。
たとえば、あなたの目の前にある1m四方の空間を意識してみましょう。じつはそこには何十万個もの微生物が漂っているのです。思わず息をとめてしまうような驚きかもしれません。けれども、ミクロの目線で見るなら、それが私たちがすむ地球の真の姿なのですね。
空飛ぶ微生物から生まれた「そらなっとう」
ヒマラヤ山脈を飛び越えて渡りをするツルのことを知っている人も多いと思います。そんな渡り鳥たちと同じように、微生物も風に乗って地球上を大移動しています。
実際、高度数千mの上空からも微生物が見つかっており、地球上の数千㎞もの距離を移動しているといわれています。
空を旅する微生物たちは、微生物同士が凝縮したり、鉱物などの粒子に付着して移動しています。黄砂のような大陸部で生じる砂塵などは微生物にとって格好の乗り物であり、さながら「空飛ぶ箱船」のような役割を果たしています。
このように空を舞う微生物としては、真菌、細菌、ウイルスなどがあげられます。なかには馴染みの深い細菌も見つかっています。
能登半島の上空3000mで行われた調査では、納豆菌が発見されました。その菌を見つけた研究者がとてもユニークで、実際に納豆をつくってみたそうです。現在は「そらなっとう」の商品名で石川県のメーカーが販売しています。一般の納豆と比べて臭いも粘りも少なく、まろやかな味わいだそうです。
ぷかりぷかりと空に浮かぶ雲も、微生物にとっては快適な乗り物です。それどころか、微生物たちは雲を利用して、生命のサイクルを循環させている可能性があります。
雲をつくり、雨を降らす微生物
雲は、上空にあがった水蒸気が冷やされ、水滴や氷の粒になり、それらが集まって形成されます。この水蒸気が粒になるとき、空気中の微粒子が核になります。こうした水滴がくっつきあってさらに大きくなり、重たくなって落下したものが雨ということになります。
その核となる微粒子のほとんどは鉱物に由来しますが、なかには微生物が核になる場合があります。
このように雲をつくる微生物の多くは、植物の感染菌として知られています。植物感染菌は、植物に入り込み枯死させた後、大気に放出され、空に舞い上がります。そして、雲をつくり、雨を降らして、再び地上に戻ってくるのです。
雨を降らすことで地上の生きものたちに恩恵をもたらし、自らも生息範囲を広げて進化をとげていく……。そこに微生物たちの意志が感じられるといったら考えすぎでしょうか。
この雲や雨のように、私たちが自然の一部としてほとんど意識していないメカニズムに微生物たちが深く関わっていることが次々と明らかになっています。私たち人間は、ついついこの地球の主人公のように振る舞いがちですが、自然の現実はそうでもないようです。次回は、炭素循環にも深く関わる海にすむ微生物たちを紹介したいと思います。
参考文献・サイト
https://sites.google.com/site/aerosolpedia/yong-yurisuto/risuto-jue-ding-ban/15?tmpl=%2Fsystem%2Fapp%2Ftemplates%2Fprint%2F&showPrintDialog=1
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=568
https://www.kinjyo710.com/
【バックナンバー】
地球をめぐる微生物の物語1:雲にのって空を旅する微生物たち (現在の記事)
地球をめぐる微生物の物語2:炭素循環と微生物たち
地球をめぐる微生物の物語3:微生物たちが主役を担う!?海の中の炭素循環
地球をめぐる微生物の物語4:炭素循環から知る、植物と微生物の共生関係
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