「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は台湾の朝ごはんの定番、鹹豆漿(シェントウジャン)についてです。あのやさしい味わいの秘密は、もち米を発酵させてつくる「香酢」にあるそうです。
一日中朝ごはんが食べられる気軽な店
鹹豆漿(シェントウジャン)と言えば台湾の朝ごはんの定番です。その名前は憶えていなくても、お椀の中でふるふると豆乳が少し固まったものを食べたことがあるという方も多いと思います。日本でも、「シェントウジャンの素」といった商品も売られるようになっているようで、一般に知られるようになりました。でもなんで豆乳がちょっと固まるのでしょうか。
台北の街を歩いていると、あちこちに「〇〇〇豆漿」という店があって、朝早くから多くの客でにぎわっています。そのひとつに入ってみると、日本でも見かけるような菓子パンや、甘いアイスティーやアイスコーヒー、フルーツジュース、それに台湾らしい肉まんに、クレープよりも厚めのもちもちとした生地に具を包んだ「蛋餅(タンピン)」なども並んでいます。
そして、多くの客が鹹豆漿を食べていました。私もほかのお客さんたちを真似て、台湾の揚げパン「油条(ユーティアオ)」を入れてもらいました。鹹豆漿自体は、味としてはお豆腐、食感は緩めの茶碗蒸しといった感じで、つるりとのどを通ります。油条は空気を多く含んだ揚げパンで、鹹豆漿を含んで柔らかくなっていきます。
味付けはというと、どうも酸っぱい。酢を使っているんですね。そのおかげで豆乳が固まるというわけです。
黒酢と香酢は違う酢でした
鹹豆漿に一般的に使われているのが「香酢(こうず)」。黒い色をしています。そのせいで日本の黒酢と同じものなのだろうと勝手に思っていたのですが、調べてみると違いました。
日本の黒酢は玄米と麹を原料として、カメの中で発酵から熟成まで2年以上をかけるそうです。こくが深くて風味が豊か。それに、健康食品としても人気で、よくテレビショッピングなどで見かけます。
一方の「香酢」は、中国の黒酢ともいわれているようにその色は黒褐色。異なるのはその原料で、玄米ではなくもち米を使います。こちらも長期間熟成するので、つんとした酢の刺激は少なく、まろやかな旨味になります。酢豚や、小籠包のたれなどに使われるので、皆さんも食べたことがあるはずです。
鹹豆漿を作ってみる
まずは油条ですが、これは小麦粉とふくらまし粉をこねて一晩おいてから揚げたもの。
これが全体です。でも、はっきり言って面倒くさいのと、作るのにコツがいるので、一般的なバゲットで代用するのがいいと思います。
器に黒酢を大さじ1入れておきます。
豆乳(成分無調整のもの)200mlを鍋に入れて、沸騰直前まで温めたらどっと酢の上から器に入れます。ちょろちょろじゃなく、どっとです。そしてかき混ぜません。かき混ぜると分離してしまい、フルフルっと固まらないんです。これで、鹹豆漿は完成です。
油条や、好きな具をのせると楽しいです。ザーサイ、ピーナッツ、パクチーを乗せて、辣油でちょっとピリ辛に仕上げました。
とっても体に優しい鹹豆漿を食べて一日を始める台北の人たち。朝から元気な理由はこれかもしれません。
[All photos by Atsushi Ishiguro]