「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は、日本では「サラミ」の名称でよく知られるドライソーセージのお話。白かびでつくるスペインのソーセージです。
スペインの白かびドライソーセージ”Fuet”
サラミといえば、子供のころには大人のお酒のおつまみだと思っていました。実際おつまみで食べられることは多いと思いますが。まだ小さかったころには、なんだか胡椒が辛いし、ちょっと固いしとあまり好みませんでした。でも、ピザに乗ったサラミは別もので、トマトソースやチーズによく合うのか、すんなりとおいしく食べていました。もちろん、今ではサラミは大好きです。やっぱりお酒を飲むようになったら、その美味しさがより分かったという気がします。
さて、サラミはイタリアのドライソーセージの一種です。ドライソーセージは水分含有量が少なく乾燥しているソーセージのことで、常温で保存できます。イタリアをはじめ、スペイン、フランス、ハンガリーなど、ヨーロッパ各地に伝統的なドライソーセージがあります。今回はスペインの白かびドライソーセージ「Fuet(フエ)」を紹介します。
上の写真は、スペインのバルセロナの屋内市場にあったソーセージやワイン、チーズなどを売る店。冷蔵ケースの中には様々なチーズが並び、その上にしつらえられたバーには、常温で保存できるドライソーセージがぶら下がっています。少しわかりにくいかもしれませんが、バーの左のほうにぶら下がっている白いものがフエです。
私が最初にドライソーセージを食べたのはスペインではなく、フランス北部の都市リールでした。カフェ・バーのひとつに入ると、そこのカウンターに白い棒状のソーセージがおかれています。もちろん常温です。友人が「これはビールにあうから食べよう」ということで、食べてみたのでした。
EUで食材の移動の自由を実感!
このドライソーセージ、商品説明のタグを見ると「Fuet」と書かれています。スペインのドライソーセージのフエでした。ナイフとカッティングボードを貸してくれて、適当な厚さに自分でカットします。切ってみて気づきましたが、中にヘーゼルナッツが入っているものでした。
フエはスペインの白かびを使って発酵させたドライソーセージの名称です。フランスにも「キュルノンチュエ」というフエそっくりの白カビのドライソーセージがあります。EU圏内では物流が容易なので、フランスにもスペインからの食材が無関税でやってくるというわけです。
フランス北部ではワイン以外にビールもよく飲まれています。こちらのビールはベルギーの醸造所のもの。なるほど、EU内では食材が自由に行き交っているんだなぁと実感させられました。
フエを手に入れて久しぶりに食べてみます
フエを購入してきました。輸入食材のお店で扱っていることが多いようです。長さは30㎝ちょっと。中に表面が真っ白なフエが見えています。
スライスして食べてみると、白カビの味というか、カビの香りといったものはもちろんまったくしません。白かびのおかげで、内部からの水分が吸収されて乾燥し、豚肉の脂質とたんぱく質は分解されて熟成します。水分がなくなれば保存性が増します。味のほうはというと、スパイシーな香りも相まって何とも言えない旨味がたっぷりでした。脂部分が口の中で溶けると、その甘みがしっかりと感じられて、それが肉の部分と一緒になるととってもおいしい。
そういえばカマンベールチーズも白かびの力を借りた発酵食品です。日本人に身近なものなら、鰹節のかびつけもありました。こちらは白かびではありませんが、やはり乾燥の助けをして、旨味をプラスするという効果があるんですね。
お店で見かけたら、ぜひトライしてみてください。白カビの力が感じられると思います。