「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。第1話は、発酵によって香りと味わいが深まる紅茶のお話です。「セイロンティー」でお馴染み、スリランカで最高の紅茶の香味を一緒にお楽しみください。
日本人にお馴染みの紅茶「セイロンティー」
普段から、マグカップとティーバッグで簡単に淹れた紅茶をよく飲みます。ティーポットにティーカップにソーサーで飲むような「お紅茶いかが」とか、「午後ならハイティーをたのしまないと」いったハイソサエティなイメージもありますが、カジュアルに楽しむのもいいと思います。
さて、スリランカがセイロンと呼ばれていたのは1972年まで。今でもスリランカ産の紅茶は「セイロンティー」と呼ばれています。日本に輸入される紅茶の50%はセイロンティーです*。誰でも、知らないうちにスリランカの紅茶を飲んでるかもしれません。
紅茶のクォリティの格付けに驚く
現地の紅茶工場を見学しました。緑鮮やかな積み立てのお茶がベルトコンベアに乗って選別されていきます。
分かりにくいかもしれませんが、この写真の女性が持っている茶葉の真ん中に細い茎のような、まだ開かない葉があります。この部分が最高級の「ゴールデン・ティップス」に使われます。
日本製の機械を使って更に乾燥させたら発酵の工程に進みます。熱を加えるので、部屋の温度は高めで湿気があります。紅茶は「発酵茶」と呼ばれて、酸化酵素によってその独特な香りと味になるそうです。日本で飲む緑茶や番茶は「不発酵茶」です。
スリランカでは栽培される茶園の標高によって分類されたり、摘まれる季節によっても分類されるそうです。また、使う茶葉の位置によって等級がいくつかあります。最高クラスの「オレンジペコー」は茶葉の先端部分で、紅茶製品としては「ゴールデン・ティップス」呼ばれるものになります。一方下位の「ダスト(細かいという意味あい)」は粉上の茶葉で、工場で案内してくれた人によれば「どこの市場でも売られていて毎日飲むのがダストです」とのことでした。
最高クラスのゴールデン・ティップスをいただく
試飲させていただけるということで、ゴールデン・ティップスをいただくことにしました。カップに葉を入れて熱湯を注ぎ、ソーサーで蓋をします。紅茶入れるには、お湯は熱湯で、沸騰したら水に含まれる空気が逃げないうちに淹れるのがベストだそうです。そうして温度を下げないように蓋をします。それにしてもソーサーで蓋をするとはちょっとラフなような気もしますが、合理的ですよね。
しばらくしてソーサーを取り、ひっくり返してテーブルに置いてカップを置きます。カップの中では葉が開いて、豊かな香りが漂ってきました。すっきりと澄んだ薄い褐色で、飲んでみるとスーッと喉を降りていきます。雑味がなくて爽やか。なるほど、紅茶の美味しさってこういうことなんだと分かりました。そして、一度飲み終えたらもう一回お湯を注いでもらってもう一杯楽しみます。
中国の茶葉がオランダに渡り、その後大英帝国が植民地で栽培を始めて世界的に飲まれるようになった紅茶ですが、最初は万能の薬と言われていて高価なものだったとか。日本でも明治時代以降には外貨獲得を目的として輸出するために栽培されていたそうです。1971年の輸入自由化以降に消費が増えたそうです。そして最近は国産紅茶を製造する農園が少しずつ増えています。
写真の勉強をするためにイギリスに住んでいた頃は、毎日朝から晩まで紅茶を飲んでました。イギリスのスーパーで売っているのは個包装されていない大袋に入ったご家庭用の丸いティーバッグで、紐もついていません。マグで淹れたらスプーンですくって出します。更に、同じ湿ったスプーンで砂糖つぼから砂糖を入れて、冷蔵庫から出した牛乳を入れてと、上品さとはかけ離れた飲みかたでした。でも、そんな気取らない飲みかたもまたおいしかったなと思い出しました。
*日本紅茶協会/紅茶のデータ/2000年
https://www.tea-a.gr.jp/knowledge/tea_data/
**伊藤園/お茶の分類
http://www.ocha.tv/varieties/classification/
(All photos by Atsushi Ishiguro)