「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが綴るコラム。今回は、秋の秋田をめぐる旅です。「しょっつる」といえば秋田名産の発酵調味料であり、日本三大魚醤のひとつ。そればかりでなく、秋田には「日本三大○○」があとふたつあるそうです。それは読んでからのお楽しみ。
秋色に染まる秋田を旅する
秋の秋田に出かけました。新幹線で青森へ。そこからまずは大館に南下しました。次に鷹巣まで行き、秋田内陸縦貫鉄道という第三セクターの列車に乗り換えて角館へ。車窓からの紅葉も美しく、いかにも鄙びた村々の風情が東北の秋ならではの、真っ白な深い雪に閉ざされる前の深い秋の色でした。
江戸時代には久保田藩の城下町だった大館は、明治になると鉱山で賑わったものの、昭和後半からは人口減少が続きました。ここは秋田犬発祥の地ということで、「秋田犬の里」という観光施設に寄ってみたかったということと、名産の比内地鶏も食べてみたかったので立ち寄ることにしました。
大館で味わうしょっつる、きりたんぽ、比内地鶏
「塩魚汁」と書いて「しょっつる」。ハタハタなどの魚を発酵させてつくる魚醤です。以前ご紹介した能登の「いしる」や香川の「いかなご醬油」と並んで、日本の三大魚醤のひとつと言われます。
魚に塩をつけて仕込み樽に入れたら、あとは重石をした後、1年以上、毎月攪拌してこし、さらに熟成したら出来上がり。魚肉たんぱく質が自然発酵して出来上がりますが、麹を加えて発酵させるものもあるそうです。多くの発酵食品と同様に、自然に任せてゆっくりと発酵が進み旨味が生まれます。
大館市内の山間部の宿で、きりたんぽ鍋をいただきました。きりたんぽは炊いたご飯を潰して杉の棒に巻き付けて焼いたもの。それを、野菜やきのこ、鶏肉と一緒に煮たものがきりたんぽ鍋です。
きりたんぽ鍋にも「しょっつる」を使うことがあって、海産物が入っていない鍋ながら、海鮮の出汁感が感じられて味に奥行きが出るようです。
大館のスーパーに立ち寄ってみると、きりたんぽ鍋の具が一人前ずつパックになって売られていました。「孤食」という言葉を思い出しました。こういった山間の街でも、一人暮らしをしている人が多いのかもしれません。
さてお昼時になって、シャッターの締まった商店街でようやく開いている店を見つけて入ると、幸運なことに地元の人達が多く集まる「比内地鶏」がおいしいお店でした。この「比内」とは、秋田県北部地域一帯の呼び名です。
比内地鶏は、鹿児島の「さつま地鶏」、愛知の「名古屋コーチン」と並ぶ日本三大地鶏のひとつで、軍鶏と地鶏が自然交配したものが始まりらしく、肉質がしっかりとして旨味が多く感じられました。
角館の武家屋敷と稲庭うどん
秋田内陸縦貫鉄道はその名の通り秋田の内陸部を南北につなぐ路線です。一両編成で鷹巣から角館まで94.2㎞、29駅を結びます。その終点が角館。ここもまた大館と同様に城下町ですが、往時の武家屋敷と商家の街並みも残る観光地で賑わいがあります。武家屋敷の黒塀の上には、織られた錦のような紅葉が見頃でした。
このあたりの名産と言えば「稲庭うどん」です。なんとこちらもまた日本三大うどんのひとつに数えられています。他のふたつは香川の「讃岐うどん」だったり、長崎の「五島うどん」だったり、群馬の「水沢うどん」だったりといろいろあるようです。
実は稲庭うどんは「手延べ」、つまり引っ張って伸ばしてコシとツヤを出すという製法で作られています。讃岐うどんのように、足で踏んでコシを出してといった方法とは異なって、素麺のように作るわけです。つるりとしたのど越し、しっかりとしたコシが特長です。醤油とごまのたれでおいしくいただきました。
秋田内陸部を縦貫する旅は、三大○○が3つも。またゆっくりと出かけたい、趣のある土地でした。
[All photos by Atsushi Ishiguro]