「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。 今回は、ルーマニアの旧市街で出会ったロールキャベツのお話。その独特の風味と旨味の秘密は、丸ごと乳酸発酵させるキャベツなのだそうです。
旧共産圏で独裁国家だったルーマニア!
ルーマニアは長いあいだ独裁国家でした。1989年、ルーマニア革命で独裁者シャウシェンスクが公開処刑され、その後、ようやく民主化を迎えました。それからまだ30年ほどです。冒頭の写真は、ルーマニアの首都ブカレストにある旧共産党本部です。共産主義や独裁国家だった頃の重々しいイメージは、今でも街のあちこちの建物に残っていますが、今となってはなんとなくノスタルジックに感じられるのが不思議です。
そんなルーマニアで、おいしいロールキャベツに出会いました。そして、世の中が変わっても、昔から変わらないその土地の食べ物にほっとしたのでした。
ルーマニアの旧市街でロールキャベツを食べる
現地を訪れる前に、ロールキャベツがルーマニアの伝統料理のひとつだと聞いていました。隣り合う旧共産圏の国々、ハンガリー、ウクライナ、モルドバなどでも、よく食べられているそうです。
上の写真は、旧市街にある比較的新しいレストランのロールキャベツです。陶器の鍋には小ぶりのロールキャベツが6ロール、バケツのような器にはトウモロコシの粉を練ったポレンタ、たっぷりのサワークリームに、青い唐辛子が添えられています。
ロールキャベツのキャベツが漬物だった!
まずはそのまま、サワークリームをつけずに食べてみます。軟らかいキャベツに、しっかりとした肉質のひき肉団子が包まれていて、トマトやベーコン、玉ねぎと一緒によく煮込まれています。使われているのは豚肉、アヒル、牛肉の三種類のひき肉です。こってりしているかと思いましたが、意外にもすっきりした味で、やわらかい酸味を感じます。サワークリームと一緒に食べれば、更に爽やかな口当たりになりつつも、ちょっと濃厚さが加わりました。あまり辛くない青唐辛子をたまにかじりつつ食べ進めていきます。
しばらくすると、キャベツに独特の旨味があることに気づきました。「このキャベツは何かが違う」ということでお店の方に聞いてみると、ルーマニアのロールキャベツに使うのは丸ごと漬物にしたキャベツで、言ってみれば丸まるキャベツのザワークラウトなんだよと教えてくれました。
夏の間にクリスマスに向けて仕込む
ルーマニアでは各家庭で樽を用意して、キャベツをハーブと一緒に漬け、そのまま4~5カ月間発酵させるとのこと。田舎では、直径2mはある大きな木製の樽に数百個のキャベツを漬けることもあるそうです。これは乳酸菌による発酵です。夏の間に仕込んでクリスマスまでには出来上がります。ロールキャベツはルーマニアのクリスマスには欠かせないごちそうなんだそうです。
下のリンクは、大量のキャベツを巨大な樽に仕込んでいる画像です。
https://peasantartcraft.com/wp-content/uploads/2020/01/fermented-whole-cabbage-2.jpg
人の生活に息づいてきた「サワー・キャベツ」
長い歴史の中で、人間社会の仕組みは変わっていくかもしれませんが、人々が変わらずに食べ続けている伝統料理があります。作り方や食べ方は、少しずつ変わっていくとしても、その土地ならではの食文化はずっと続いていくんだなと、なんだかほっとしました。
(All photos by Atsushi Ishiguro)