「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。今回ご紹介するのは、ミャンマーのマーケットで買った豆の発酵食品「ポン・イェ・ジー」。日本の味噌や醤油にも通じる、アジアの発酵文化の多様さが伝わってきます。
ミャンマーの世界遺産バガンへ
「ビルマの竪琴」で日本人にも馴染みが深いミャンマー。出かけたのは2年前の11月のことでした。日本の約1.8倍の国土に、135の民族、約5400万人が住んでいます。そのうち90%が仏教徒です。
ミャンマー西部にあるバガンは、カンボジアのアンコールワット、インドネシアのボロブドゥールとともに、世界三大仏教遺跡のひとつに数えられています。41㎞²という広大な土地に、冒頭の写真にあるような巨大寺院や3000を超える仏塔が点在しています。
そしてバガンがあるマンダレー地方には美味しい豆の発酵食品があったんです。
ニューバガンのレストランで出会った豆の発酵食品
世界遺産登録に向けて、バガンの遺跡群の中に住んでいた人たちは、遺跡保全のために、ニューバガンという町を作って移り住んだそうです。ニューバガンには手軽な宿やレストランがあって、バガン観光の拠点です。
日中に電気バイクを借りて遺産群をあちこちと走り、人通りの多い通りに並んでいるレストランのひとつに入りました。メニューを見てもよくわからないので、若い店員にこの地域ならではのおすすめを聞いてみると、魚の煮込みがいいと教えてくれました。
テーブルに運ばれてきた料理を一口食べてみると、今まで味わったことがないおいしさが口いっぱいに広がります。デミグラスソースを使ったシチューのような濃厚な口当たりなのに、その旨味はしつこくなくてすっきりしています。それが、川魚の淡白な身によく合っていて、何ともいえないおいしさなんです。
「ポン・イェ・ジーを使えば簡単だよ」と
あんまり美味しいので、店員さんに「これはいったいどうやって作ってるんだ!」と聞いてみると、調理人を呼んでくれました。エプロン姿で厨房から出てきた、30代後半くらいのかっぷくのいい料理人が、調味料らしきパッケージをテーブルに置くと、「ポン・イェ・ジーを使えば簡単に作れるんだよ」とのこと。そして「それはいったい何なの?」と聞いてみれば「豆を発酵させた調味料で、マーケットに行けば売ってるよ。」と教えてくれました。
ポン・イェ・ジーは、黒豆をぐつぐつと煮て、さらに煮詰めてから発酵させる調味料。上の写真が、マーケットで買ってきた2種類ポン・イェ・ジーです。左がペースト状のもので、右が粉末状にしたもの。
見た目は「八丁味噌」(左)、「甘くないさらし餡」(右)といった印象です。いずれも塩味は感じませんが、旨味は醤油や味噌などで感じるものに近いと思います。うっすらと茹でた豆の香りがします。
マーケットには、手作りのポン・イェ・ジーも量り売りで売られていました。こちらは残念ながら味見しなかったのですが、いつか機会があればトライしてみたいと思います。
日本に帰ってから「ポン・イェ・ジー」を使って作ってみました
日本に帰ってから、あの味を思い出しながら、インターネットでレシピ情報を探して、自分なりに作ってみました。旅の後には決まって現地の味を再現してみるんです。ポン・イェ・ジーの旨味に、炒めた玉ねぎ、魚醤とチリパウダーで味付け。現地で食べたものと変わらない美味さが再現できました。
大豆の発酵食品と言えば、日本なら醤油、味噌、納豆、中国の豆鼓は知っていましたが、ミャンマーに煮込み料理に使う黒豆を発酵させた旨味ペーストがあるとは新発見でした。
(All photos by Atsushi Ishiguro)