「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが綴る今回のコラムの舞台はカリブ海に浮かぶキューバ。郊外の葉巻農場を訪れたお話です。あの葉巻のふくよかな香りには微生物による発酵が関わっているのです。
ノスタルジックなハバナの街並み
キューバはカリブ海に浮かぶ島国です。地域としては中米ということもあってか、なんとなく遠い国のように思われますが、あらためて地図を眺めてみると、アメリカ合衆国はフロリダのすぐ南に位置していて、その距離はわずか700㎞ちょっとです。東京からなら青森や香川あたりですから、とっても近いんですね。
1959年には、キューバの歴史的な英雄であるチェ・ゲバラが、カストロ兄弟と共にキューバ革命を起こし、社会主義国家になりました。冒頭の写真は革命広場のビルに描かれた有名なゲバラの肖像画です。それにしても、民主主義のアメリカから目と鼻の先の国が社会主義になったのですから、アメリカの政府は動揺したに違いありません。1962年にはアメリカとは国交断絶し、アメリカは経済封鎖を始めました。
首都ハバナの中心ともいえるパルケ・セントラルでは、20世紀中ごろまでに製造された色鮮やかなアメリカの車、いわゆるアメ車が集まって、観光客を乗せては市内を巡るドライブで稼ぎます。国交断絶後も大切に乗られているんですね。
それにしても古き良きアメリカを連想させる車がキューバには多く残っているなんて、なんだか不思議な気がしてきます。
ハバナからヴィニャレス地方の葉巻農場へ
さて、ハバナから200㎞ほどに位置する、たばこ産業が盛んなヴィニャレスにあるたばこ農場を訪ねました。「たばこ」は植物としてのタバコの葉の名前でもあります。訪れた11月は、夏に育てたタバコの葉を乾燥させる時期で、来年に向けて苗木を畑に植え始める頃でした。
これがまだ若いタバコの葉です。茶色になったタバコの葉しか見たことがなかったので、こんなに青々と生命力がある姿には驚きました。そして、葉巻の製造工程には「発酵」が含まれているとは、まったく知りませんでした。
大まかな製造プロセスです。
- たばこを畑で栽培し収穫する。
- たばこの葉を、納屋の中で自然乾燥または木材を焼いて乾燥させる。
- 葉を大きさと色で分けて、10枚から15枚ごとに束ねて箱に入れ発酵させる。
- 葉を巻いて葉巻にして、パッケージに入れる。
発酵の期間は2年から5年。長期間発酵させたものは香りがふくよかになるそうです。また、葉を巻くには手巻きと機械巻き、もちろん手巻きのほうが高級品として扱われます。ちなみに日本で製造されているたばこは発酵の工程がない紙巻きたばこですが、乾燥させてから重ねて熟成をするそうです。
健康のためにたばこを吸う人は年々減少していますが、発酵の力を借りた葉巻文化があったことは覚えておきたいと思います。
上はハバナのレストランで食後にいただいた葉巻とラムです。ラムは次回ご紹介します。
参考:
https://www.jti.co.jp/tobacco/knowledge/variety/cigar/index.html (葉巻(シガー) | JTウェブサイト )
How Products are Made / Cigar
How cigar is made - material, manufacture, making, history, used, industry, machine, History, Raw Materials (madehow.com)
(All photos by Atsushi Ishiguro)