「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は返還50周年の沖縄を旅して出会った「泡盛」について。タイ米と黒麹でつくる沖縄独特の蒸留酒です。
返還50周年の沖縄を旅する
4月に沖縄を旅してきました。首里城では守礼門をくぐり、第一の正門である歓会門を通って城郭内に進むと、首里森御嶽(すいむいうたき)が待っています。御嶽(うたき)は祈りの場所。特にこの御嶽は最も格式の高い拝所と言われているそうです。梅雨前の青い空に、ガジュマルやクロツグといった木々が茂って、気持ちがすっとするような場所でした。
さて、2022年は沖縄返還50周年。たくさんのイベントやテレビの特集番組などがありました。沖縄は琉球王国という独立した国だったということで、その食文化も独特です。豚肉を使った料理、沖縄そば、げんこつ型の揚げドーナッツ、さーたーあんだーぎー、島らっきょうに海ぶどうをはじめとした伝統食もあれば、米軍統治下に影響を受けたスパムおにぎりやハンバーガー、ステーキなどもあります。
そしてお酒なら「泡盛」。ちょっと癖のある香りが独特ですが、すっきりと飲めます。泡盛は焼酎と同じ蒸留酒です。上の写真の左が新酒、右が古酒です。
蒸留酒の製造方法
蒸留酒は、まず原料の炭水化物を酵母が糖化して糖分を作り出して、それを分解してアルコールと二酸化炭素を発生させます。ここまでだと「醸造酒」。ビール、日本酒やワインがその代表です。蒸留酒は一度作ったアルコールを蒸留させて作ります。蒸留は熱して蒸気にしたものを冷ますという作業です。アルコールの沸点が水より低いので先に蒸発して、その分アルコール度数が上がります。その過程で出る蒸留粕は栄養価が高く、「もろみ酢」として出回ることもあります。
泡盛の香りと味わい
さて蒸留酒の一つである泡盛ですが、一般的な焼酎との違いは使う原料と、発酵に使われる酵母である麹です。原料は長粒米で、製品のパッケージを見ると「タイ米」と書かれています。そもそも沖縄に伝わってきた蒸留法はタイのものだったそうです。そして、使う麹は黒麹。沖縄の温暖で多湿な気候に合っているそうです。またクエン酸を多く発生させるということで、雑菌による腐敗も防ぐことができます。
その香りは、麹菌の使い方、発酵の温度、蒸留方法、熟成方法などで変わるそうです。黒麹菌を使うのでマッシュルームやまつたけのような香りもするとか。
私が好きな伝統的な製法で作られている石垣島「白百合」はちょっと癖がある香りが独特です。甕の香り、土の香りがするという感想も多いようで、好き嫌いはあるかもしれませんが、通に好まれる泡盛だと思います。
古酒の楽しみ
泡盛を製造してから3年以上熟成させたものが「古酒(くーすー)」です。香りが深くなり、その味わいはまろみを帯びるようになります。第2次世界大戦前には100年、200年といったものも多くあったそうですが、戦争でその大半が失われてしまったそうです。
糸満市の「琉刻」の8年35度の古酒をいただいてみます。確かにまろやかで香りも豊かです。若い泡盛と比べると、角が取れたといった印象でした。
料理に使う泡盛
泡盛は日本酒のように料理にも使います。アルコールは30度はあって香りも強いので、料理の仕上がりに与えるインパクトは強いと思います。
豚の角煮「ラフテー」に使えば、肉は柔らかく、香り良く仕上がります。サトウキビから作る沖縄の黒糖も使えばその甘みは奥深くて、色がつやつやに仕上がりました。
飲むだけではなく料理酒としても楽しめる泡盛。最近はコンビニなどでも売られていますから、手に入りやすくなりました。
[All photos by Atsushi Ishiguro]