旨味たっぷりの魚醤といえば、タイの「ナンプラー」、ベトナムの「ニョクマム」、そして日本の「しょっつる」が思い浮かびます。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は、ふだんの家庭料理でも使い勝手のよい魚醤の活用方法についてです。
日本の三大魚醤の一つ、秋田の「しょっつる」
以前のコラムで秋田県でつくられる伝統的な調味料「しょっつる(塩魚汁)」をご紹介しました。今回は、このしょっつるをいつもの料理に使ってみたいと思います。しょっつると言えば冬の日本海の魚「はたはた」と野菜や豆腐、きのこと煮込んだ「はたはた鍋」が有名です。しっかりとした海の香りは、しょっつるの原料の魚のおかげ。もともとはたたはたを使っていたそうですが、最近はその他の魚も使うものも多くつくられています。
しょっつるは、魚を塩漬けにして発酵させる「魚醤」のひとつ。発酵の過程で、魚はその形を失って液状になります。1年以上熟成すれば、たんぱく質からうまみ成分のアミノ酸が生成されます。
世界の魚醤の色と塩分
うちの台所にある魚醤を並べてみました。左からタイの「ナンプラー」、石川県の「魚汁 いしる」、秋田の「塩魚汁 しょっつる」、ベトナムの「ニョクマム」です。
小皿に出して、色を眺めてみるとだいぶ違いがありました。100ml中の塩分は、ナンプラーが26.3 g、いしるが26.3 g、しょっつるが26 g、ニョクマムが24.2 gでした。色が濃いから塩分が濃いというわけではなく、塩分はどれもほぼ同じ。材料とする魚や製造のプロセスによって色が異なるようです。
日本の一般的な濃い口しょうゆは100 ml中塩分相当が14.5 gですから、2倍近くの塩辛さということになります。
いつもの料理にしょっつるを使うと出汁いらず!
いつもの料理の醤油の代わりに、醤油の半分ちょっとの量のニョクマムを使うと一気にうまさが倍増します。食べなれた醤油でもおいしいのですが、「この旨味は何だろうな」といった印象になります。アジアを旅行で食べた魚醤を使った料理を思い出すかもしれません。
上の写真は、大根、人参、豚バラ肉、うずらの卵の煮物です。味付けはナンプラーと酒、お砂糖で出汁は特にいれません。魚醤はうまみたっぷりなので出汁がいらないんですね。
ベトナム北部では大根もよく食べられています。上の写真、ハノイの野菜を売る屋台の一番上の奥に、白い大根が並んでいます。日本のものとあまり変わりません。
今度は、大根、人参、玉ねぎ、鶏もも肉をナンプラー、酒とお砂糖、それにタイのグリーンカレーペースト(市販のもの)を加えて、グリーンカレー風にしてみました。フライドオニオン、パクチー、チリパウダーをトッピングすればこれぞ東南アジアの味といった仕上がりです。
いつもの料理に使う醤油を魚醤にして風味を変えてみたり、タイのカレーペーストも入れたりして、出汁いらずの魚醤の旨味を生かした料理を楽しんでみてください。
[All photos by Atsushi Ishiguro]
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