「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが旅先で必ず立ち寄るのが地元の市場。今回のコラムはフィリピン・マニラの市場と、地元で味わった家庭料理のお話です。
マニラの住宅地区にある食品市場
国内でも海外でも、旅先ではその土地の市場に出かけます。観光客向けの市場では、お土産やその土地の特産についての説明もあったりするので、いろいろとわかりやすく知ることができて楽しめます。また、主に地元の人たちのためという市場があれば、そちらにも行ってみます。昔ほどの活気がなくなったと聞くことも多いです。
マニラ首都圏(メトロ・マニラ)、ケソン市にあるファーマーズ・マーケットに出かけました。ケソン市は整備された住宅地が多い地域で、メトロ・マニラにある17の市町のなかで最も多い300万人ほどの人が住んでいます。
このファーマーズ・マーケットは小売りの食品市場ですが、写真の通りかなり規模が大きく、体育館よりも大きな建物の中に、鮮魚、食肉、野菜・果物、調味料・雑貨のセクションがあって、ここに来れば食のことならなんでも揃うといった品揃えです。地元のお客さんたちで賑わっていて、お店の人たちとの会話も盛り上がっている様子です。
ここでは食材がパック入りで個包装になっているのではなく、魚なら一尾ずつ、肉なら各部位から切り分けてもらうので、迫力があります。近隣で取れた新鮮なものが並ぶので、衛生的にも問題がないようです。
こんな活気のある市場で買い物をして毎日料理出来たら楽しいだろうなと思います。
ケソンのご家庭で習った「いかのアドボ」
市場から少し離れた住宅街にあるお宅に伺って、地元の料理研究家をしている女性に料理を教えてもらいました。「あんなに活気ある市場があってうらやましい」と言うと、「最近はスーパーも増えて、パック入りで並ぶものを買う人も多くなりました。これからどうなるのかなぁ」とのこと。地元の人のための昔ながらの食品市場は、マニラでも珍しくなっていくのかもしれません。
さて「アドボ」はフィリピンの国民食ともいわれている煮込み料理です。鶏肉や豚肉をメインの材料として、にんにく・玉ねぎなどの野菜と一緒に、ローリエや黒こしょうを入れて煮込みます。今回はいいだこに似た小さないかを使います。たこではなくていかです。
味付けの決め手はビネガー
炒めた野菜にいかを加えて、しょうゆやいかすみも入れて煮た後に、ドボドボとボトルから注いているのはパイナップル・ビネガーです。酢はアルコールの糖分を用いて酢酸菌の発酵によってつくる発酵食品。酸っぱくておいしくて料理の味を引き立ててくれますが、それにパイナップルを使っているとなれば、更においしいに違いありません。ちょっと味見をさせてもらうと、ほんのりとパイナップルの香りがして、酸っぱさはほどほどでした。
こちらのお宅のキッチンには他にもココナッツ・ビネガーがあったので香りをかがせてもらうと、こちらは確かにココナッツの香りがします。フィリピンには他にも、米、サトウキビ、ヤシの実を使ったものもあるそうです。中央の大きなボトルはしょうゆです。しっかりとした塩味を感じる濃いめの味でした。
こちらが完成したいかのアドボ。しょっぱ甘い味付けはご飯に合います。ビネガーを使ってはいるものの、火を入れているのでかなりマイルドに仕上がって、いいコクがでていました。
キッチンから庭に出ると、カラマンシーの木に実がなっていました。沖縄のシークヮサーと同じくらいの大きさの柑橘系の果実で、フィリピンでは様々な料理に使われるそうです。酸っぱさはほどほどで、爽やかな甘みがあります。
もっと取り入れたい、酢を使った料理
酢はもちろん酸っぱいので、料理の味を引き締めます。火を入れれば甘さとコクが際立って、様々な料理に合いますよね。日本でも、リンゴ酢、黒酢、ワインビネガー(赤・白)、バルサミコ酢など、スーパーマーケットでいろいろな酢が手に入るので、ちょっとした隠し味に少し入れてみるのもいいと思います。また、興味があればアドボのようにビネガーをドボドボと入れる料理にもチャレンジしてみてくださいね。
こちらにレシピを掲載しています。
【自宅で旅ごはん|レシピ】フィリピンのイカのアドボ | Atsushi Ishiguro (ganimaly.com)
[All photos by Atsushi Ishiguro]