乳酸菌たちがつくりだす有用な成分、「乳酸菌生産物質」についてシリーズでご紹介しているコラム。3回目は、いよいよ乳酸菌生産物質の歴史を紐解いていきたいと思います。そのルーツともいえる、日本における乳酸菌飲料やヨーグルトの歴史もあわせて紹介しましょう。
乳酸菌生産物質が初めてつくられたのはいつ?
我が国における乳酸菌生産物質の歴史は意外に古く、初めてつくられたのは戦後間もない1940年代です。やがて「スティルヤング」という商品として発売されました。どのような商品だったか詳しくは伝わっていませんが、茶色の液体であり水で希釈して飲むものだったようです。甘く、ほのかに酸味のある味わいだったらしく、さながら現在の乳酸菌飲料のような感じだったのでしょうね。
では、いかにして乳酸菌生産物質がつくられるようになったかというと、それには乳酸菌食品の歴史が深くかかわってきます。せっかくの機会ですので、我が国におけるその歴史をたどってみましょう。
日本におけるヨーグルトの始まりは奈良・平安時代
日本に牛乳が伝わったのは6世紀頃といわれ、すでに奈良・平安時代にはヨーグルトにも似た乳製品がつくられていたようです。ちなみに仏教には「五味」という言葉がありますが、これは牛乳を加工していくステップで生まれる5つの味わいが由来となっています。その中の最高の味わいとされるのが「醍醐味」。現代でもよく目にするこの言葉の由来は乳酸菌にも関連しているわけですね。
しかしその後は、我が国で酪農が発達しなかったこともあり、乳製品づくりはしばらく途絶えたような時代が続きました。
文明開化とともに生まれた乳酸菌食品たち
現代へと続く発酵乳の文化が欧米から伝わったのは明治時代です。この時代から日本でも少しずつ酪農が広まりはじめました。日本で初めて牛乳が販売されたのは1863年、アイスクリームは1869年といわれ、いずれも文明開化の街、横浜がはじまりでした。
乳酸菌飲料が登場するのはもう少し後の1919年、実業家として活躍していた三島雲海氏が内モンゴルで出会った酸乳にインスピレーションを得てつくった「カルピス」が最初といわれます。同じく乳酸菌飲料の「ヤクルト」が開発されたのが1935年。また、1917年には日本初の乳酸菌製剤「ビオフェルミン」が発売されています。まさに乳酸菌食品にとって黎明ともいえる時代だったのです。
そしてこの時代、乳酸菌生産物質のルーツとなる乳酸菌食品が誕生しています。それが1914年に発売された日本初のヨーグルトです。
「エリー」という商品名で販売されたこのヨーグルトを開発したのは、京都に住む医師、正垣角太郎氏でした。当時ヨーロッパで広まりつつあった「ヨーグルト不老長寿説」に関心を抱き、自らヨーグルトを開発し販売を始めたのです。
さて、なぜこの「エリー」が乳酸菌生産物質のルーツとなるのでしょうか?
じつは、最初に紹介した日本初の乳酸菌生産物質商品「スティルヤング」を開発した人物は、正垣角太郎氏の子息である一義氏なのです。正垣一義氏は、父が日本初のヨーグルトに注いだ情熱を受け継いで、乳酸菌生産物質を開発することに至ったのです。
その物語の第2章は、次回のコラムでお話しましょう。
参考文献・サイト
https://www.j-milk.jp/findnew/chapter2/0102.html
『人の健康は腸内細菌で決まる!』(光岡知足著)技術評論社
『不老腸寿』(村田公英著)幻冬舎
【バックナンバー】
乳酸菌生産物質とは① 細菌たちがつくりだす成分
乳酸菌生産物質とは② 乳酸菌たちをめぐる基本知識
乳酸菌生産物質とは③ ヨーグルトのはじまりと乳酸菌生産物質 (現在の記事)
乳酸菌生産物質とは④ 乳酸菌生産物質のキーパーソンたち
乳酸菌生産物質とは⑤ 乳酸菌の共棲培養を育んだ情熱
乳酸菌生産物質とは⑥ 人の腸をお手本に「共棲培養」を深める
乳酸菌生産物質とは⑦ 腸内細菌学の巨人、光岡知足が唱える「バイオジェニックス」と乳酸菌生産物質
乳酸菌生産物質とは⑧ 350以上もの成分を含む乳酸菌生産物質、保湿もペットもアスリートにも?! 注目が集まる理由