微生物のこと
2022.09.19

地球をめぐる微生物の物語3:微生物たちが主役を担う!?海の中の炭素循環

微生物・海・炭素循環

微生物たちの存在を地球サイズの目線で考えるとき、必ず知っておかなければならない地球の仕組みが「炭素循環」です。「地球をめぐる微生物の物語」の3回目は、海洋での炭素循環がテーマ。最近、かつての概念を一変するような新しい食物連鎖が明らかにされ、海の中の炭素循環において微生物たちが主役的な働きをしていることがわかってきています。 

 

大気と海洋を行き来する二酸化炭素 

炭素循環とは、はるか太古の時代から気の遠くなるような時間をかけてずっと紡がれてきた地球の物語です。その壮大な循環には、小さな微生物から私たちヒトまで、この地球に存在するすべての生命がリンクのひとつとして関わっています。そして、人間の営みによってそのバランスが崩れ、大気中の二酸化炭素が増えた結果、引き起こされている現象が気候変動なのだといわれています。

この炭素循環において、地球の表面の約70%を占める海が大きな存在となっていることはいうまでもありません。地球の大気と海はとても密接な関係にあります。大気に排出される二酸化炭素のうち約4割が海洋からのもの同じく大気中に存在する二酸化炭素の約4割は海洋によって吸収されています。

 

海洋の炭素循環における2つのポンプ 

海洋における炭素循環には大きく2つのサイクルがあります。1つは「溶解ポンプ」と呼ばれるサイクルで、大気中の二酸化炭素が物理的・化学的に海水に溶け込むものです。表層の海水に溶け込んだ二酸化炭素は海洋の循環などにより、長い時間をかけて中層へ、そして深層へと運ばれていきます。 

 もう1つのサイクルは「生物ポンプ」と呼ばれています。こちらは、森林をはじめ植物をスターターとする、陸上における炭素の循環とよく似ています。 

つまり、海水に溶け込んだ二酸化炭素を植物プランクトンが取り込み、光合成によって太陽エネルギーから有機物がつくられます。この有機物から植物プランクトン 動物プランクトン 魚という食物連鎖が始まり、海の生態系の中で炭素は循環していきます。 

深海・生物・微生物

やがて生命を終えたプランクトンや魚は深海へと沈み、有機物として堆積し、微生物たちによって分解され、二酸化炭素が放出されます。この深層に貯まった二酸化炭素が長い時間をかけて表層へと移動し、再び海洋から大気へと放出され、循環の輪が完成するのです。 

 光合成というと、私たちは陸上の植物をすぐに思い浮かべます。しかし、1年間に光合成によってつくられる有機物の量は、陸上と海洋の植物でほぼ同じと推定されています。植物プランクトンは、大きさでは陸上の植物に到底かないませんが、生命のサイクルがとても短いために有機物を合成するサイクルも速く、トータルで匹敵するほどの生産力を発揮するのです。 

 

海の中のもうひとつの食物連鎖、「微生物ループ」

「植物プランクトン 動物プランクトン 魚」という海の中の食物連鎖は、生物の教科書などにも載っているので知っている人も多いと思います。しかし、最近研究が進むにつれてこのような概念が一変され、海の生物たちの連鎖はもっと複雑であることが明らかにされています。 

 先ほど「生物ポンプ」の中で、「プランクトンや魚の死がいなどは微生物によって分解され、再び有機物から二酸化炭素がつくられる」と紹介しました。ところが、このステージで活躍する微生物をめぐってもう1つの食物連鎖が行われているのです。有機物の分解者である細菌を、同じく微生物である原生動物が食べ、さらに動物プランクトンが捕食するという食物連鎖です。 

この原生動物とは、アメーバやゾウリムシなど単細胞からなる極小の動物のこと。その名のとおり、遊泳したり動的な生態をもっています。最近の研究によると、スプーン1杯の海水の中に数万もの原生動物がいるそうです。 

この微生物たちの食物連鎖は「微生物ループ」とも呼ばれ、海の中では魚たちの食物連鎖に匹敵するほどの重要な役割を果たしています。また、このループは、動物プランクトンが魚に捕食されることで旧来の食物連鎖ともリンクします。 

食物連鎖・微生物ループ・海 

 

このように海の生物たちの関係を俯瞰的に眺めると、微生物は有機物の分解者であるばかりでなく、仲介者や生産者としての役割も担っていることがわかります。海洋の炭素循環において、これまで脇役のように思われていた微生物たちは、じつは主役として働いているのかもしれません。 

 

参考文献・サイト 

https://www.rd.ntt/se/media/article/0001.html 
http://ecosystem.aori.u-tokyo.ac.jp/microbiology-wp/wp-content/uploads/2018/06/microbial-ocean.pdf 

 

【バックナンバー】

地球をめぐる微生物の物語1:雲にのって空を旅する微生物たち
地球をめぐる微生物の物語2:炭素循環と微生物たち
地球をめぐる微生物の物語3:微生物たちが主役を担う!?海の中の炭素循環 (現在の記事)
地球をめぐる微生物の物語4:炭素循環から知る、植物と微生物の共生関係

 

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片倉 さとし

片倉 さとし

コピーライターの本業の傍ら、ときどき“いきものライター”として魚をはじめ生物系の記事や書籍を書いています。免疫力を高めると言い訳して、週末はサーファーとして毎週海へ。KOSMOSTにかかわるようになって微生物の本を読みあさり、最近、毎朝スムージーを飲むようになりました。 -------- Q. 「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. 酒場で迷ったときは、蒸留酒よりも醸造酒を選ぶこと。 Q. ウェルネスのために心がけていることは? → A. サーフィン。あまり熱心ではないヨガ。 ------- 🦠 片倉さとしの記事一覧

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