肥満は「万病のもと」ともいわれ、高血圧や糖尿病など多くの病を引き起こすことで知られている。そのひとつに、歯と歯ぐきのあいだの細菌感染から歯の周りに炎症が起こる「歯周病」がある。実はこの「歯周病」にも腸内細菌が影響していることをご存じだろうか。
新潟⼤学⼤学院 医⻭学総合研究科 ⼝腔保健学分野の⼭崎和久教授(現:理化学研究所⽣命医科学研究センター)と理化学研究所 ⽣命医科学研究センター 粘膜システム研究チームの⼤野博司チームリーダーらの共同研究グループは、肥満による腸内細菌の変化によって歯周病が悪化するメカニズムを明らかにした。
この研究の詳細は次の通りである。
・まず、あらかじめ抗生物質によって腸内細菌をほとんど無くしたマウスを用意し、A群とB群に分ける。
・次に、A群には、高脂肪食で肥満になったマウス(肥満マウス)の糞便を移植。
・B群には、普通食を与えたマウス(普通マウス)の糞便を移植する。
・そして、それぞれの群の中で、人為的に歯肉炎(歯周病の初期段階)を誘発するグループと、そうでないグループを作る。
このようにして、①「A群・歯肉炎誘発あり」、②「A群・歯肉炎誘発なし」、③「B群・歯肉炎誘発あり」、④「B群・歯肉炎誘発なし」という4つのグループを用意し、それぞれの症状を比較した。
すると、肥満マウスの糞便を移植した「A群」の方が、普通マウスの糞便を移植した「B群」のマウスよりも、歯肉炎が重症化していることがわかった。A群、B群の違いは移植した糞便のみだ。ここから、移植された糞によって腸内細菌叢(腸内フローラ)が変化し、その違いが歯周病の重症度に差をもたらすことが明らかになった。
なお、研究の結果、以下のようなことがわかっている。
・肥満マウスの腸内細菌叢では、プリン代謝経路が活性化していること
・肥満マウスの腸内細菌叢では、Turicibacter(ツリシバクター)などの細菌の割合が有意に⾼くなっていること
・さらにこれらの細菌は、移植後のマウスでも⾼い⽐率であること
・⻭周炎誘発グループのマウスでは、⾎中のプリン代謝物である尿酸の値が上昇していること
そこで肥満マウスの糞便を移植したA群のマウスに、尿酸産生を抑えるアロプリノールという薬を投与したところ、投与しないマウスに比べて歯周病の重症化が抑えられていることが判明した。
以上の結果から、肥満者で⻭周炎が悪化するのは、腸内細菌の変化によってプリン代謝経路が活性化され、そこで生まれた尿酸によって引き起こされていることが示唆された。
参考文献・サイト
新潟大学に掲載のプレスリリースより編纂 (2021年06月03日)
[ ここに注目 by KOSMOST編集部 ]
KOSMOSTでは、「健康も、しあわせも?からだと細菌の驚くべき関係 〜“新”乳酸菌生活のススメ④」で、肥満にも腸内細菌たちが影響していることを紹介しました。今回とりあげた研究から、歯周病の悪化にも肥満による腸内フローラの変化が関わっていたことが判明したとは驚きです。
⼭崎和久教授と⼤野博司チームリーダーらの研究から、歯周病予防の観点でも腸内環境を整える重要性が明らかになっただけでなく、⻭科治療へ補助的に併⽤する「プロバイオティクス」の探索・開発への期待も高まりそうです。
プロバイオティクスとは「乳酸菌やビフィズス菌など、からだや腸内細菌叢バランスによい影響を与える微生物(細菌)を含む食品」のこと。普段の生活から腸内環境を整えることで未然に病気を防いでいきたいものですね。
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