「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。今回から、ひとつの国の食文化を発酵食品などに焦点をあてながら2回にわけて紹介します。まずは世界三大料理に数えられる、トルコ料理のお話です。
食のコスモポリタンとして発展してきたトルコ
世界三大料理と言えば、アジアの中華料理、欧州のフランス料理に、中東のトルコ料理と言われています。それぞれ、箸、ナイフとフォーク、指食の食文化圏です。食文化の大分類の3つと言えるかもしれません。
そのひとつ、トルコにはどんな食材・料理・保存法があるのでしょうか。
トルコ最大の都市イスタンブールは、黒海とマルマラ海をつなぐボスボラス海峡の両岸に広がる都市です。(マルマラ海はさらにエーゲ海へと繋がります。)ボスボラス海峡の西岸はヨーロッパ、東岸はアジアなので、東西が出会う街として、また北欧のバルト海へ続く「琥珀の道」は南北に地中海までをつなげていたので、まさに様々な食文化が集まるコスモポリタンとして発展してきたんですね。
地中海と遊牧民の食文化の交差点
イスタンブールで早朝から営業するデリには、様々な冷菜「メゼ」が並びます。メゼは前菜や軽い食事としていただくもので、東地中海から中東西側の国々にみられます。野菜、魚介類、ハム・ソーセージ、ヨーグルト、オリーブとオリーブオイル、ハーブ類などを使った色鮮やかなメゼを、パンと一緒に、デリの表にあるテラスでいただきました。
伝統的な発酵食品であるチーズの種類も豊富です。もともとトルコの人たちは中央アジアから、現在のトルコの東の地域であるアナトリアにやって来た遊牧民です。「白チーズ」と呼ばれる、フェタチーズに似たあっさりとしたチーズがよく食べられています。細く糸を編んだように見える塩辛いチーズもありましたが、それは以前モンゴルで食べたものとほぼ同じものでした。また、現在ではあまり見られなくなったそうですが、馬乳酒も中央アジアから渡ってきたそうです。
塩で保存するぶどうの葉
さて、食べ物の保存方法にはいろいろあります。乳酸菌の力を借りる発酵はもちろん、もっとシンプルな塩漬けもたくさんあります。野菜などの植物を塩漬けにすると水分が奪われて、腐敗菌が生き残れない環境になります。野菜の塩漬け、魚介類の塩辛、わかめの塩蔵など、塩の力を借りた保存方法です。
トルコの塩漬けでユニークなのは、ぶどうの葉です。1年保存できるそうです。この塩漬けしたぶどうの葉で、羊のひき肉、玉ねぎ、米、ハーブ類をこねたものを包んでトマトと煮こんだものがトルコの代表的な料理のひとつ、ドルマです。葉の食感は桜の葉の漬物に似てしっかりしています。葉の塩味も上手く利用した、ちょっとロールキャベツにも似た一品でした。発酵と同様に、塩蔵(えんぞう)も大切な食料を保存するための知恵なんですね。
次回はトルコの国民的ヨーグルトドリンク「アイラン」をご紹介します。
(参考)『世界の食文化9 トルコ』 鈴木薫, (社)農村漁村文化協会
All photos by Atsushi Ishiguro