せかいのこと
2022.02.16

大豆発酵食品テンペ ~インドネシア・バリ島で出会った伝統と味

インドネシア ・バリ・ヒンドゥ・聖獣・バロン

大豆の発酵食品といえば、日本では「納豆」が思い浮かびますが、赤道直下のインドネシアにも同じようなルーツをもつ食品があるそうです。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は、バリ島で出会った「テンペ」のお話です。 

 

バリ・ヒンドゥの島

インドネシアは何千もの火山島からなる赤道周辺の国です。日本の約5倍の土地に、日本の人口の2倍を超える人たちが住んでいます。日本からインドネシアの旅と言えば、バリ島が人気です。美しいビーチや山間の古い町ウブドなど、南国の雰囲気を楽しみながらリゾート施設でゆったり過ごせるのがその理由のようです。 

バリ島を訪れてみると、街の雰囲気はインドネシアの他の地域とはちょっと違います。その理由のひとつは宗教です。インドネシアではイスラム教徒が大勢を占めますが、バリではバリ・ヒンドゥの信者がほとんどです。

朝起きて路地を歩けば、あちこちにバナナの葉に乗せた花や植物、ご飯が供えられています。玄関先に、人が歩くような歩道の上にも、ビーチにもその「チャナン」と呼ばれる供え物がありました。「お供え物」という宗教上の習慣が、なんとなく日本の仏教のお供え物を思い出させてくれて、バリの人たちの生活が身近に感じられるかもしれません。 

冒頭の写真はバリ・ヒンドゥの「聖獣・バロン」です。ダンス好きと信じられている獅子の姿の聖獣です。 

 

バリ島・山間部・ウブド・日本の里山

ビーチにはリゾートホテルが並び、観光客を相手にしたマリンスポーツなどが盛んで、州都デンパサールの町には夜までにぎやかな通りもあります。のんびりしていながらも少し忙しい活気があります。 

一方、バリ島の山間部にあるウブドは本格的にのんびりした町で、ガムラン音楽や円形に座り男たちが合唱するケチャなど、バリならではの文化を堪能できます。伝統音楽や宗教上の儀式や祭りが人々の生活に根付いています。また、美しい棚田もあって、自然に寄り添う人たちの生活も垣間見られました。どことなく懐かしく、日本の里山の風景が連想されて、ほっとするのだと思います。 

 

バナナの葉で作る大豆の発酵食品「テンペ」

テンペ・大豆の発酵食品

さて、大豆の発酵食品と言えばご存じ「納豆」です。ねばねばと糸を引きその香りは独特で、あまり得意じゃないという方も多いと思います。茹でた大豆を納豆菌で発酵させるとアンモニア成分も発生するからなのですね。多くの納豆好きにとってはあの香りもたまらないと言いますから「好き・嫌い」、「慣れ・不慣れ」って面白いものだなと思います。 

インドネシアの「テンペ」も大豆の発酵食品です。納豆との違いのひとつは、見ての通りその形です。ゆでた大豆を固めて成形して発酵させます。発酵のための菌も違います。成形した茹で大豆をバナナの葉に包めば、その葉に付着しているテンペ菌が発酵してくれます。テンペ菌とは、クモノスカビの一種。クモノスカビは、デンプン質に富んだ食品や果物などに多く発生する,自然界に広く分布している菌だそうです。ふわっとしたクモノスカビが豆と豆の隙間をびっしりと埋め尽くして、白い塊になるので、細切りにしても形が崩れません。納豆と違って、つんとした特有の香りはなく糸も引きません。 

もともとテンペは、肉や魚をあまり食べる習慣がなかったジャワ人が作りだしたもので、それがインドネシア料理の食材として欠かせないものになったそうです。

 

日本でできる「テンペ」のレシピ

テンペ・焼きビーフン

テンペを薄く切って肉のように使って焼きビーフンを作ってみました。ほのかに茹でた豆の香りがします。フライパンで炒めても形は崩れず、口にすれば食感は柔らかくもなく固くもなく、ちょうどよく茹でた大豆の柔らかさです。 

普通、大豆を調理するときは、一晩水につけてゆっくりと茹でる必要があって面倒ですよね。それに、ゆでた大豆は傷んでしまいます。そこでテンペ菌の発酵の出番です。テンペ菌の発酵の力を借りてテンペに加工しておけば保存もできて、すぐに調理に使うことができて便利です。たんぱく質や植物繊維も豊富で、これを炒めたり揚げたりすれば、立派なおかずになるのですから、保存、便利、そして栄養素も摂りやすくなり一石二鳥です。 

テンペ・焼きビーフン 

今回はいくつかの野菜、ビーフンと一緒に中華風に炒めてみました。テンペにはたれも絡んで、ホクっとした口当たりもよく、おいしく出来上がりました。ほかにも、市販の唐揚げ粉をまぶして油で揚げれば、唐揚げのようになります。ほぐしてキーマカレーに使ったりしても、ひき肉の代わりになって、ヘルシーでおいしく出来上がります。 

最近は植物由来の代替肉に関心が高くなっています。インドネシアの伝統発酵食品を使ってみるのもその方法のひとつ。テンペは納豆より癖がないので、いろんな料理の材料として気軽に試してみてもいいと思います。 

参考文献:
阿良田 麻里子,「世界の食文化⑥インドネシア」, 農山漁村文化協会, 2008/3
INJカルチャーセンター,「インドネシアすみずみ見聞録 (アジア・カルチャーガイド)」, トラベルジャーナル,1995/1

 

[All photos by Atsushi Ishiguro]

 

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石黒 アツシ

石黒 アツシ

「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中のおいしいものを食べ歩き、食文化を写真に収め、日本で再現してみんなと食べることをライフワークにしている「旅行家・写真家・食事家」です。KOSMOSTのコラムでは、これまで旅先で食べてきた発酵食品を、皆さんと一緒に楽しみたいと思います。 -------- Q.「微生物とともに生きるライフスタイル」で大切にしていることは? → A. おいしい発酵食品を、おいしくいただいています。 -------- 🦠 石黒アツシの記事一覧 ------- 🦠石黒アツシwebsite

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