かつて東西に分断され歴史に翻弄され続けてきたドイツ最大の都市、ベルリン。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんの今回のコラムは、このベルリンの街角で見つけた、平和の象徴ともいえるパンのお話です。
「壁」の崩壊から30年以上過ぎたベルリンのいま
ドイツが東西に分かれて、社会主義と資本主義が世界を2分して冷戦を繰り広げていたのも1980年代後半まで。ベルリンを2分していたベルリンの「壁」が崩壊したのは1989年ですから、もう30年以上も前の話ということになります。
ドイツが東西に分かれていた当時、ベルリンは東ドイツの領土の中にありました。そしてそのベルリンの中に、「ベルリンの壁」にぐるりと囲まれた西ドイツ領の部分「西ベルリン」があり、その西ベルリンと西ドイツのメインの領土は高速道路でつながっていました。
その頃に西ベルリンに住んでいた人に聞くと、東ドイツにぐるりと囲まれた西ベルリンに住みたいという人は少なかったそうで、西ドイツ政府は優遇税制とか若者を優遇したりして住人を保持していたそうです。「だからある意味クレージーな人たちが多くって、楽しい街になったんだよ」と。
そんなベルリンで、ドイツの伝統的なパン「プレッツェル」の店に行ってみました。
様々なプレッツェルが人気のパン屋へ
住宅街にある「Pretzel Company」は地元に人たちに人気のパン屋。その店名の通りプレッツェルが美味しいと評判です。
店内にはドイツパンを中心に様々なパンが並びますが、ひときわ面白いのは壁のフックにかけられて並ぶプレッツェルの姿でした。
さて、ドイツパンと一言に言ってもその種類は300種類もあるそうです。黒くてむっちりとした酸味を感じるライ麦パン、ベリーやシナモンなどが練り込まれて甘みのあるもの、ひまわりやかぼちゃの種を練り込んだり表面につけて焼いたものなど様々です。
その中でもプレッツェルはその形と食感が独特です。材料は小麦粉とイーストで、イースト菌で発酵させてつくります。特徴的なのは焼く前にベイキングソーダを溶いた水につけること。これで表面がしっかりと固く焼きあがって、あの独特な食感に仕上がるというわけです。
この店ではプレーンのものの他にも、チーズ、カボチャの種などを練り込んだタイプも並んでいました。チーズのものを買って食べてみると、しっかりとした食感はそのまま、チーズの香りが豊かでおいしくいただきました。
ところで、日本でお馴染みのスナック菓子「プリッツ」は、1962年にドイツのプレッツェルを参考にして開発されたそうです。ですから日本人の多くは、子供のころからプレッツェルの味に親しんでいたということになります。
カタツムリという名前のお菓子パン
くるくると巻いた生地を3㎝位の厚さに切ってオーブンで焼き、砂糖のアイシングをかけたこのパン。ドイツで人気のお菓子パンです。その名前は「schnecken (シュネッケン)」、意味はカタツムリです。
シュネッケンは、北欧の国々のシナモンロールに似ています。地図を見てみればドイツの北部からデンマークへは地続きですし、食文化はその土地の気候や収穫できる食糧にも影響されますから、似ている食べ物があっても不思議ではありません。
欧米にはいろいろなパンがありますが、様々な種類の伝統あるパンを楽しむならドイツが面白いと思います。日本にもドイツパンのお店がありますから、ぜひいろいろ試してみてください。
[All photos by Atsushi Ishiguro]