「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんのコラムが今回から新シリーズになります。これまでと同じように旅の思い出を語りながら、それにまつわる料理なども紹介。第1話は、モロッコの塩レモンがテーマです。
飛行機と列車を乗り継いでモロッコのマラケシュへ
東京からイスタンブールへ12時間ちょっと、さらにモロッコのカサブランカまで4時間。電車に乗り継いで、また乗り換えたりして6時間で到着したのがマラケシュでした。マラケシュまで飛行機でもいけますが、電車に乗ってみたかったんですね。それにしてもなかなか時間がかかります。思えばモロッコはアフリカ大陸なんですね。遠いわけです。
マラケシュはカサブランカから内陸に入った古い街。列車には多くの観光客が乗り合わせていました。日本の真新しい客車とは違って、座席も荷棚もなんだか重そうです。
そのモロッコで美味しかったのが「Preserved Lemon」(保存できるレモン)です。レモンに塩を合わせて発酵させたもので、モロッコではよく使われる調味料です。
祭のようなジャマ・エル・フナ広場そばで塩レモン
マラケシュに着いて、「リヤド」と呼ばれる民宿に荷物を置いて、夕方のジャマ・エル・フナ広場に出かけました。上の写真の奥右側にも広場が広がっていて、かなりの広さです。お土産屋やモロッコ料理の屋台が並び、大道芸人たちがパフォーマンスを繰り広げています。さて、何を食べようかなと見て歩きましたが、あまりにもいろいろな、しかも食べたことがないようなものがあって決めかねます。そういえばリヤドの主人がおススメのお店があったなということで、小さなレストランに入りました。
そこでいただいたのが冒頭の写真「ラムのクスクス」です。野菜と一緒に蒸した柔らかいラム肉にはスパイスで下味がついていて、その蒸し汁を吸った世界最小のパスタ「クスクス」と一緒にいただきます。
その付け合わせに出てきていたのが「塩レモン」でした。レモンの酸っぱさはあまりなくなっていて、もちろん塩のしょっぱさはありますが、なんとなく甘みがあるような。これをクスクスに合わせて食べます。もともと蒸し料理のクスクスですからサッパリしていますが、塩レモンをプラスすると一気に爽やかさが増します。クエン酸のおかげで疲れも取れるといった効果がありそうです。
塩レモンを作ってみる!
塩レモンの材料は、塩とレモンだけ。塩はレモンの量の15%から20%です。これを清潔な瓶に詰めて冷暗所に6週間。
こんな風に、果汁がでたレモンはかなりくったりとした状態になっています。低温調理機があれば60度に設定して24時間ほどでできるので簡単です。乳酸発酵をしていて長期保存が可能。Preserved Lemon(保存できるレモン)と呼ばれる所以ですね。
瓶から出してみると、皮以外の部分はかなりとろけていて、今回は粗くみじん切りにして、鶏むね肉に半日ほど漬けてみました。
よく漬かるように、鶏むね肉はあらかじめ1cm幅位に切っておきます。
今回はタジン鍋で、野菜と一緒に蒸しました。鶏むね肉には、比較的形が残っていた塩レモンを一切れ乗せてみます。唐辛子と香辛料のペースト「ハリッサ」は地中海沿岸の各地で使われているピリ辛でちょっとエキゾチックな香り。これがタジンによく合います。蒸して素材から出た水分もおいしくて、塩・コショウだけの野菜がおいしく食べられます。
モロッコ料理、塩レモンと聞くとなんだか取っつきにくいかもしれませんが、作ってみると意外に簡単。それに、塩レモンはいろいろな肉の下味にも、魚介類にもあうので、ある意味万能調味料。保存が効くので便利です。
[All photos by Atsushi Ishiguro]