「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが綴るコラム。発酵食品を切り口にその国や都市の食文化を語る新シリーズの2回目は、日本の沖縄と「豆腐よう」のお話です。
沖縄は多様な食文化の交差点
沖縄へ旅行に行ったり、東京でも沖縄料理の店に行ったりして食べた「豆腐よう」。大豆のチーズともいわれていて、濃厚な旨味と滑らかな舌触りが独特な発酵食品です。ウニにも似ているという人もいるようです。「楊枝で削りながらたべると、泡盛に合うんだな」という通の方もいますよね。
琉球王朝の時代から沖縄は交易の要衝で、その食文化は独特に進化してきました。独自の風土と食材・調理法は、古くは中国や日本の影響も受けています。戦後のアメリカの統治時代からは、アメリカの食文化も一般の食事にとりこまれました。日本の他の地域にはない異文化の出会いがあって、沖縄ならではの食文化が育ってきたんですね。
さて、沖縄の麺類の代表と言えば「沖縄そば」。そばとは言え、そば粉は使わず、ラーメンの麺に使われるようなかんすいも使わずに、ガジュマルなどの灰汁を使って練った麺に、出汁は豚骨にかつお出汁。すっきりしているようでしっかりとしたコクがあります。
タコライスも沖縄独特な料理。メキシコ料理のタコスはトウモロコシや小麦粉で作ったシェル(薄く焼いたもの)に、肉料理や野菜を挟んだ一品。沖縄には、メキシコからアメリカに伝わったアメリカ風のタコスがやって来ました。
そして、沖縄でしか見たことがないファストフードの「A&W」は、カリフォルニアで創業されたハンバーガー・チェーン。店舗によっては、駐車場に車を駐めて窓を開け、そこにあるメニューを見て、マイクとスピーカーで注文をすると、店員さんが出来上がった料理を車まで運んできてくれます。このとてもアメリカンなスタイルは他では体験できません。
豆腐ようは中国の腐乳が伝わって変化した発酵食品
琉球王朝の昔に、貴族が好んだという「豆腐よう」。東京にもある沖縄県産品のお店に行って、紅白の豆腐ようがセットになったものを購入しました。沖縄料理の店で食べたことはありましたが、買ってみたのは初めてです。
豆腐ようは、沖縄の島豆腐を麹と泡盛を合わせたもろみに長期間浸けたもの。最初に水分を抜くので水分は少なく、ねっとりとして滑らかな食感になっています。
楊枝の先でちょっと削って食べてみます。赤いほうは紅麹を使ったもの。白いのは白麹を使ったものです。
大豆のチーズと言われるように、確かにチーズのような口当たり。それでも、臭いのきついチーズなどよりもずっとマイルドです。ウニに似ているという気もします。今回食べてみたものだと、赤いほうが麹の味を強めに感じて、白いほうはもう少しあっさりしていてごまのような香りもありました。
中国の腐乳はパンチがある味!
中華食材の店で手に入れたのがこの2種類の「腐乳」。沖縄の豆腐ようの原型です。左がプレーンなもので、右が辛いものです。
いずれも紅麹のものでした。プレーンなほうは塩味がしっかりしています。濃厚なチーズのような旨味は豆腐ようと同じです。右の辛いほうは、プレーンのものに辛みを加えたもののようで、やはりしっかりとした塩味と旨味です。
塩気がしっかりついているので、調味料として使うのにもよさそうです。中国ではお粥にちょっと入れたり、炒め物に使ったりもするそう。豚肉と小松菜の炒めものなどに使ってみようかと思いました。
中国から沖縄にやって来た腐乳が豆腐ようになって、いまでは東京に住む私でも手に入れて食べることができます。長い歴史を感じるとともに、便利な世の中になったんだなぁと思いつつ、また沖縄に行って食べたいなと思いました。
[All photos by Atsushi Ishiguro]