チョコレートが発酵食品であることを知っていますか? 「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが書き綴るコラム。今回のお話は、ニュージーランドの首都、ウェリントンにあるビーン・トゥ・バーのチョコレート店についてです。
南半球、太平洋に浮かぶ島国、ニュージーランド
南半球、オーストラリアの南東に位置するニュージーランドへの移民が始まったのは1840年代から。最初はイギリス人とアイルランド人だったそうです。1850年から70年代にかけてのゴールドラッシュの頃には、ウェールズやスコットランドからの移民も増えました。その後、好景気が収まると移民でやって来る人たちも減りました。今では様々な国からの移民も増えてきましたが、もともとは現在のイギリス4国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)とアイルランド由来の人たちが立ち上げた国です。
ニュージーランドは北島と南島からなり、南島の北端にあるウェリントンがその首都です。北島にあるニュージーランド最大の都市、オークランドと比べると高層ビルもなく、とても落ち着いた雰囲気です。「風の街」とも言われるように、海からの風が強い日が多いそうです。また、世界的に有名な映画の制作スタジオもあって、若いクリエイターたちや、観光客にも人気です。
ニュージーランド初のビーン・トゥ・バーの店
さて、今回はニュージーランドでも一番古いといわれるビーン・トゥ・バーのチョコレートの店、「ウェリントン・チョコレート・ファクトリー」をご紹介します。ウェリントンの目抜き通り「キューバ―・ストリート」のそばにあります。
キューバー・ストリートはウェリントンをほぼ南北につらぬく、1㎞ちょっとの賑やかな通りです。カフェ、レストラン、バー、食料品店、アパレルのショップなどが軒を連ね、夜になれば音楽を楽しめるライブハウスも盛り上がりを見せます。
「ウェリントン・チョコレート・ファクトリー」は、キューバー・ストリートのちょうど真ん中あたりから、一筋東側に入った通りにあります。昔は靴の工場だった建物をリノベーションしたフロアは、天井が高く大きな窓から日が差して開放的です。床の上にはカカオ豆が入った麻袋がいくつも置かれていました。
ここはチョコレートを「ビーン・トゥ・バー」、つまり豆(カカオ豆)から製品(チョコレート・バー)まで一貫して作って提供するお店です。大手のチョコレートメーカーのように大量生産するのではなく、豆からクラフトとしてつくるチョコレートのお店は、世界各国で注目されています。「ウェリントン・チョコレート・ファクトリー」は、ニュージーランドで最初のビーン・トゥ・バーのお店です。
壁の棚には一般的なダークチョコレートやミルクチョコレートに加えて、「チリ・ライム・ピーナッツ」や「クラフト・ビール」といったテイストも並んでいます。小規模だからこその実験的なアイテムが楽しめます。
チョコレートにも発酵の工程が必要です
チョコレートが買えるカウンターの隣に、ガラス張りの部屋があって、2つの大きなステンレスの樽のようなものが据え付けてありました。これは「コンチェ」というものだそうで、チョコレートを長時間かけて練り上げる機械です。この練り上げる工程は、チョコレート製造にまつわるたくさんの工程の中でも、ほぼ完成する間際のプロセスです。
ご存知の通り、チョコレートの主な原料はカカオ豆です。そして、温帯ではカカオの木は育たないので、熱帯の国から輸入されたものを使うことになります。チョコレート製造の工程に必要な発酵は、生産国からカカオが輸出されるより前に完了しているんです。
上の写真はカカオの実「カカオポッド」を割ったところです。パルプという甘くて白い果肉の中に、生のカカオ豆が入っています。これを取り出して、地面に置いたり箱に入れたりして、1週間程度自然発酵させます。すると、チョコレートの香りや味の成分が生まれてくるそうです。生のカカオ豆は、そこに生きる酵母、乳酸菌、酢酸菌などが発酵しておいしくしてくれるんです。そして、発酵が完了したカカオ豆は乾燥されて世界各地に出荷されます。
その後、豆は焙煎されブレンドされ、砕いて生成され、更に柔らかくしてから成形してと、多くの工程を経てチョコレートになります。
エシカルであることの大切さ
さて、ニュージーランドでは、商品が「エシカル」であることが価値の一つになっています。倫理的な判断基準に基づいた商品であるということです。チョコレートの場合には、熱帯の生産者に対してきちんとした対価を支払うといった「フェア・トレード」も、エシカルな商品であることの条件です。
「ウェリントン・チョコレート・ファクトリー」もエシカルにチョコレートを作っています。生産者を搾取することなく、正当な報酬のもとに購入されたカカオ豆を使っているそうです。豆の生産者から販売までのプロセスを管理してこそ、本当のビーン・トゥ・バーと言えるのだと思います。
次回は同じくウェリントンで人気のブルワリー、「ガレージ・プロジェクト」をご紹介します。
ウェリントン・チョコレート・ファクトリー
Wellington Chocolate Factory • Bean to Bar (wcf.co.nz)
参考:
https://www.valrhona.co.jp/about-chocolate/from-bean-to-bar.php
https://www.meiji.co.jp/chocohealthlife/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kasei/63/0/63_0_30/_article/-char/ja/
https://jafpec.com/topics/news-data/1324/
(All photos by Atsushi Ishiguro)