京都といえば、日本で一番有名な観光地。それとともに伝統的な食文化を大切にしている街としても知られます。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが旅先で出会った発酵食品を語るコラム。今回は京料理の名わき役、京都の伝統的な三大漬物テーマです。
京料理の名わき役「京漬物」
旅の楽しみの一つは「食」。旅先においしいものがあれば、それだけでも旅に出た甲斐があったというものです。東北生まれ関東育ち東京在住の自分にとっては、各地の、とくに「西」の伝統的な食事には特別感があって、それがおいしければやっぱり旅が満ち足ります。
さて、京都の郷土料理って何だったかなと思えば、夏に旬を迎える鱧、鯖寿司、湯豆腐、京野菜を使った様々な料理などがあるわけですが、そういえばいつもその料理を盛り上げてくれているのが「京漬物」でした。
上の写真は、数年前に出かけた11月後半の南禅寺です。京都の町のあちこちで美しい紅葉に目を奪われました。
千枚漬、しば漬け、それともうひとつ
上の写真、中央は千枚漬け、1時の位置に赤かぶ漬けの茎、赤かぶ漬、大根漬、すぐきの茎と、すぐきです。
ところで、「京もの伝統食品」は「京都府伝統と文化のものづくり産業振興条例」により指定される食品で、「京都名産千枚漬」、「京都名産しば漬け」、「京都名産すぐき」の3つの漬物も含まれます。そう、京都の三大漬物といえば、これら「千枚漬け、しば漬け、すぐき漬け」ですね。
千枚漬は食べたことがあります。とはいえ京都への旅で2,3回ほど。しば漬けならもっと身近で、これはよく食べます。その昔CMで一気に認知度が上がってから、手軽に買うことができるお弁当にも入っていることがよくあります。しかし「すぐき」です。これは「東男」である自分にとっては全くマークしていなかった京漬物です。どこかで食べたことがあるかもしれませんが、はっきりとした記憶はありません。
乳酸発酵の酸っぱさでおいしい「すぐき」
東京にも京都の漬物のお店がいくつか出店しています。その一つに出かけていくつかの京漬物を手に入れました。上の写真が「すぐき」です。長さ20㎝ほどです。冬がおいしい季節です。(京都の読者の皆さんには当たり前かもしれませんが、少なくとも東京ではなかなかお目にかかれないのでお許しください。)
「酸茎」とも書かれる蕪の一種で、これを塩だけで乳酸発酵させたのが「すぐき」または「すぐき漬」です。ほかに乳酸発酵するものには、ぬか漬け、味噌、醤油に、ヨーグルトやキムチなどもあります。(ちなみに、漬物には発酵を伴う「発酵漬物」と、酢やしょうゆなどの発酵食品に付け込んだとしても発酵が伴わない「無発酵漬物」があります)
野菜を乳酸発酵させるとどうなるかというと、甘みが少なくなる一方酸っぱさが出てきて、旨味が一層引き立ってきます。また、酸性になるので雑菌の発生が抑えられて保存性が上がります。いいことづくめです。
すぐきの姿はうっすらと黄色味が出たような本体に、茎も茶色を帯びていかにも乳酸発酵だなといった趣です。本体のほうはいちょう切りに、茎は刻んでいただきます。株独特の味わいが漬物になってなおさらおいしく感じます。茎の部分はシャキッとした食感も楽しめます。
最近は「腸内環境を改善する植物性乳酸菌」とうたわれる「ラブレ菌」のサプリメントやドリンクを見かけますが、そのラブレ菌が発見されたのは、このすぐきからだとか。すぐきは400年の歴史があるといいますから、京の人たちはその昔からこの効能の恩恵を、すぐきから得ていたということになりますよね。
京都と言えば日本の一大観光地。令和元年の統計によると、このとし京都を訪れた観光客は年間8800万人ほど。国内で行きたい観光地の調査なら、北海道、沖縄と並んで常に上位にランクしています。憧れの京都です。次に出かける機会があれば、ぜひ現地のすぐきを食べてみてください。
参考文献
『Vesta』 2018 Winter 特集「つけもの文化」(味の素食の文化センター)