「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は自作の発酵バターでつくる「あんバター」のお話です。さて、その味わいはいかに?
バターと発酵バターはどこが違う?
最近人気があるのが「あんバター」。それをパンにはさんだ「あんバターサンド」も街のパン屋さんでよく見かけます。甘じょっぱいあんこに、バターの濃厚な舌触りとこってり感が加わって、何とも言えず懐かしいような美味しさだなと思います。
今回は「あんバター」に注目して、ひと手間かけて発酵バターを作って食べてみたいと思います。
日本のスーパーマーケットで売られているバターのほとんどは発酵していないバター。日本でバターと言えばこのタイプです。最近は発酵している「発酵バター」も見かけるようになりました。英語ではどのようにいうのかと調べてみると、日本のバターは「Sweet Cream Butter」、発酵したバターは「Fermented Butter」というようです。
さて、Sweet Cream Butterは日本と北米では「バター」と一般的に呼ばれている主流派のバターです。これは、低温殺菌した乳脂肪分が高いクリームを攪拌(かくはん)して、乳脂肪分とホエイと呼ばれる水分に分けて、その乳脂肪分のほうを練ったものです。
一方のFermented Butterはヨーロッパに古くからあるタイプ。基本的な作り方はSweet Cream Butterと同じですが、その主な違いはクリームに乳酸菌をプラスして発酵させることです。発酵のおかげで、少し酸味が感じられます。低温殺菌の技術がまだないころにはバターを作る工程に時間もかかり、自然に発酵していたということのようです。
発酵バターを作ってみる
発酵バターを作るために、乳脂肪分が40%以上のクリームを使いました。この作り方では、バターが完成すると乳脂肪分は80%以上になります。80%以上の乳脂肪分はバターであることの条件の一つです。バターを100g作るためには、乳脂肪分4%の牛乳なら2リットルは必要ということになります。
今回使ったクリームの量は400ml。そこに無糖のヨーグルト60mlを入れてよく混ぜます。
40度の温かさで一晩発酵させるため、ヨーグルトメーカーで8時間と設定しました。
8時間が過ぎて発酵が進むと、もったりと重みが出てきました。これをハンドミキサーで攪拌すると、固形部分と水分、つまり乳脂肪分とホエイに分離します。
ざるの上にチーズクロスを敷いてその上にあけて、ホエイを下に落として分けます。
ホエイは「バターミルク」とも呼ばれます。飲んでみると薄いヨーグルト・ドリンクのような味で、飲料として、またパンケーキを作る際に使ったりするそうです。
チーズクロスに残った乳脂肪の部分を練ったのがこちら。これが発酵バターです。元のクリームの半分以下の量になっていました。
爽やかな酸味とさっぱりとした甘み
少し口にしてみると、爽やかな酸味とすっきりとした甘みがあります。そのせいか、ねっとり感が少なく感じられます。これは甘いものにもよく合いそうです。
ちょうど発酵バターを作った日がお彼岸だったので、おはぎに乗っけてみました。(うちのおはぎは、ご飯をあんでくるまずに、ご飯にあんを乗っけます)よくあいます。バターのくどさを感じにくいんですね。また、冒頭の写真のようにあんバターサンドにもしてみました。こちらもすっきりとした仕上がりになっています。
ただ、コストを考えてみると、自作の発酵バターはとても高くつきました。市販のものの2倍以上といった印象です。でも、一度作ってみるのは、その発酵のプロセスも楽しめるのでおすすめです。異なる発酵時間で風味も変わると思います。味のほうも、無塩にも好みの塩辛さの有塩にも仕上げられるので、自分の好みの発酵バターを作れます。
[All photos by Atsushi Ishiguro]