「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は魚を使った発酵食品の代表選手、イカの塩辛のお話です。じつはとても手軽に家庭で作れるのですね。
函館の朝市で、さばきたてのイカを味わう
近所のスーパーで、新鮮なスルメイカが売られていました。スルメイカの旬は夏。今がおいしい季節です。そして、イカの産地と言えば北海道。函館の朝市に出かけたことを思い出しました。
朝市の中にはいけすがあって、イカの釣り堀になっています。自分でイカを釣ったら、お店の人がイカそうめんにしてくれるという、旅行者向けのアトラクションです。
釣り上がったばかりのイカは透明で、その内臓までがみえるほど。こんなにぴちぴちとした生きのいいイカを食べることはなかなかできないので、期待が高まります。
さばきたてのイカを使ったイカそうめんは、歯触りがコリっと残っていて、すっきりとした味わいでした。これはなかなか経験することができない美味しさというわけです。
イカの塩辛を作ってみる
イカの塩辛と言えば、ご飯のお供の代表格であり、酒の肴の横綱と言ってもいい珍味。その作り方はとても簡単なんです。
イカの内臓を取り、エンペラと足を外して、本体部分に塩を振って一晩おきます。そうすると水分が出て、すこしねっとりとした質感になります。また、茶色いはらわたも、墨袋をとってから、たっぷりの塩をまぶして同じように一晩おきます。塩の量はイカの10%以上を目安にします。翌日、イカを食べやすい大きさに切って瓶に入れて、はらわたはその袋からこそげ出して瓶に加えて、あとは蓋をして2日ほどおいておけば出来上がります。
塩を加えて腐敗を防ぐので塩蔵というわけですが、同時に酵素によって発酵が進みます。発酵には微生物と、イカの内臓に含まれる消化酵素が関わっていて、あの旨味と香りが生まれるのだそうです。
イカ以外の塩辛いろいろ
酒を盗んでそのあてにしたいほどうまいという「酒盗」は、かつおの内臓の塩辛です。発酵が進むと内臓の生臭さは消えて、深い旨味が生まれます。
塩分が強いものが多いようで、冷蔵せずに保存できるようです。「少し舐めては日本酒」といった楽しみ方がよさそうだなと、その名の通りの珍味だと納得させられます。
さてこちらは「サーモン塩辛」です。アトランティックサーモンにいくらも入っています。米麹が使われていて、発酵のおかげで素材の旨味と甘みが倍増しているといった印象です。こちらはお酒というよりはご飯のお供。塩分は少なく要冷蔵です。塩辛の発酵法と麹を組み合わせて作る新しい美味しさです。
函館山からの夜景を思いつつ、イカの塩辛で白ご飯。また作ってみようと思います。新鮮なイカもおいしいのですが、産地から遠い場所でも楽しめる発酵食品である塩辛もやはりおいしいのでした。
[All photos by Atsushi Ishiguro]