世界でもっとも飲まれている発酵飲料といえば、やはりビールでしょう。そのビールの消費量が世界一の国がチェコ。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが綴る今回のお話は、チェコの国民的ビール「バドワイザー」。バドワイザーといえばアメリカ? いえいえ、どうやらチェコが本家らしいのです。
ヨーロッパ各地の人々が集まるプラハ
ヨーロッパの地図を見てみると、チェコはまさにその真ん中に位置していることがわかります。90年代まで続いた東西冷戦の時代には、現在のスロバキアと共に「チェコ・スロバキア」というひとつの国でした。1993年には民族的な成り立ちが異なる「チェコ」と「スロバキア」に分かれ、両国はそれぞれ2004年にEUに加盟しました。
今回はそのチェコの国民的ビール「バドワイザー」をご紹介します。ビール好きの方なら、「あれ、バドワイザーはアメリカのビールでは?」と思われたかもしれませんね。
音楽の都プラハとビール消費量
スロバキアの首都ブラチスラバから列車で到着したプラハ。その二つの都市の雰囲気は全く異なっていて、ブラチスラバはなんとなく共産主義の気配も残る静かな雰囲気で、「質実剛健」といった街並み。一方のプラハは、中世からの繁栄が生きづくちょっと「享楽主義」といったイメージです。
その繁栄の時代から、プラハは音楽の都でもあって「モルダウ」で有名なスメタナや、ドヴォルザークといった民俗楽派も活躍しました。
そして、チェコは一人当たりのビール消費量が世界一。ここしばらくは不動の第1位で、大びん換算で一年間に303本。日本は52位で63.4本ですから、チェコの人たちは日本人の4.8倍のビールを飲んでいるということになります。
チェコで作られるもうひとつのバドワイザー
プラハの街を歩いていると、どの通りにもカフェがあると言ってもいいほどで、たくさんの人たちがビールを楽しんでいます。
カフェと言ってもコーヒーをメインとしているわけではなく、やっぱりビール。自分も一杯飲もうと舗道にならぶテーブルに席をとり、メニューを見てみると「バドワイザー」がありました。
世界中で飲まれているバドワイザーは、アメリカのミズーリ州を本拠地とするバドワイザー。一方チェコには、700年前から「バドワイザー」というビールがありました。このチェコのおいしいバドワイザーにあやかって命名されたアメリカのバドワイザーは後発だったわけですが、世界各国で先んじて商標登録をしてしまったんですね。そして、商標を巡る紛争は今も続いています。アメリカのバドワイザーはヨーロッパの主な国ではバドワイザーの名前を使えずに「Bud」などと呼ばれていますし、チェコのバドワイザーは北米では「Czechvar」などと呼ばれている状況です。
日本ではチェコから輸入されたバドワイザーを飲むことができますが「ブドバー(バドバー)」といった名称になっています。
酢漬けのニシンでチェコのバドワイザーを
チェコは内陸国なので伝統的な肉料理が一般的で、チェコのレストランでは店頭で豚の丸焼きを焼いていたりします。魚料理というと、東ヨーロッパの各国同様にニシンの酢漬けもよく食べられています。
チェコのバドワイザーは、世界でも有名なザーツホップ、上質なラヴィアン・モルトと、地下300メートルの井戸からくみ上げられた天然水を使って、90日間も熟成される麦芽100%ビール。700年という伝統に裏付けられたピルスナーの名作です。これが、このニシンの料理にもよく合います。
ビールの上面発酵と下面発酵とは?
こちらは缶に入ったプラハで買ったチェコのバドワイザー。「Czeck Imported Lagar」と書かれています。
ラガー(ピルスナーもラガーの一種です)は発酵が進むとタンクの底に沈んでいくタイプの酵母で作ったもので「下面発酵」したもの。ペールエール、スタウト、アルト、ヴァイツェンといったビールはタンクの上に浮き上がる酵母を使った「上面発酵」だそうです。下面発酵のほうが上面発酵より製造の管理が容易ということもあって、大量生産に向いています。
日本で一般的なラガーのほうはすっきりとした切れ味が楽しめますし、最近人気が出てきたご当地系のエールビールはふくよかでフルーティーさを楽しめるものが多いようです。もしどこかでブドバーを見つけたら、ぜひトライしてみてください。チェコの伝統ビールのおいしさを楽しめます。
●2018年 世界主要国のビール消費量 | 2019年 | ニュースリリース | キリンホールディングス (kirinholdings.co.jp)
●上面発酵、下面発酵とはなんですか? | よくあるご質問 | サッポロビール (sapporobeer.jp)
(All photos by Atsushi Ishiguro)