私たちの腸にすむ細菌と人の体とのかかわりを研究する学問が腸内細菌学。日本のおける腸内細菌学の先駆けである光岡知足先生の研究を紹介しながら、ビオスマイルさんが人と微生物のバランスよい関係についてお話します 。
腸内細菌学のはじまり
人や動物の腸内にはたくさんの細菌が棲み、それらは腸内細菌叢(フローラ)と呼ばれています。この腸内の細菌たちと宿主とのかかわり合いを理解し、宿主の健康維持・増進に寄与するための学問が腸内細菌学です。
そして国内において、この分野の礎を築いたのが元東大名誉教授の光岡知足先生です。腸内細菌を「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」とネーミングした方でもあります。腸内細菌について語る前に、腸内細菌一筋60年余りという光岡先生の研究成果を少しだけ垣間見てみたいと思います。
鶏の腸内フローラから始まった研究
腸内細菌の先駆けとして最初に手掛けた研究は、ニワトリの腸内フローラでした。当時、ニワトリの伝染性下痢が流行していたため、その原因調査として腸内に棲む細菌に着手したのです。親鳥ではなく、自宅で有精卵から孵化させたヒナの腸内フローラからのスタートでした。 健康な鶏の腸内細菌がいつからどれだけ棲みつくのかを調査するためにも、孵化直後からの研究が必要だったのです。
当時の腸内細菌学は、学問としてはまだ黎明期であり、培養方法も機器も定まっておらず、すべてが自ら着手するしかありませんでした。オリジナルの装置などを作りあげ、気の遠くなるような緻密な手作業からのスタートでした。
ニワトリの腸内フローラを観察する際に、ご自分のフローラも観察したりして、この研究の発端が人の腸内フローラ研究につながっていきました。
私たちの中にすむ善玉菌、悪玉菌の役目
人の腸内フローラは、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」という大きく3つのグループに分けられます。人にとって有益・有害な物質を生成し、健康に影響を与えていることから命名されたあくまで総称です。
善玉菌には、代表格のビフィズス菌の他に乳酸桿菌、腸球菌などがあります。食物に含まれる糖類・食物繊維などを分解して酢酸、乳酸、酪酸などの短鎖脂肪酸をつくり、人の健康に寄与しています。
悪玉菌は、大腸菌、ウェルシュ菌などが有名です。主に動物性たんぱく質を好みますが、過剰にたんぱく質が分解されると有害物質も過剰に作られてしまいます。
腸の中の細菌たちから学ぶこと
さて、人の腸内ですが、赤ちゃんとして母体にいる時は無菌状態です。それが出産とともに細菌たちが棲みはじめます。まず、悪玉菌である大腸菌などが棲みつき、その後、善玉菌のビフィズス菌が徐々に繁殖して、実に9割以上を占めます。赤ちゃんの栄養となる母乳の中に、ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖などが含まれているからです。
離乳後にはその他の細菌も徐々に増え、ビフィズス菌は20%くらいに減ってしまいます。この割合が維持されていれば健康も維持できるという考え方から、善玉菌:2割、悪玉菌:1割、日和見菌:7割というバランスが腸内フローラの理想といわれるようになりました。もちろん個人差があるので、おおよその割合だそうです。
ならば善玉菌を増やして悪玉菌をゼロにした方がよいのでは……と考えがちですが、それはできません。悪玉菌にもそれなりの役割があります。それを人間の都合で無理に排除しようとしたら、かえってバランスが崩れてしまいます。
私は、腸内細菌と向きあうようになってから、物事を善悪に分け、善玉だけを増やせばよいという考えではなく、悪玉の存在もあることを受け止め、全体のバランスを保つことが大切であることに気づきました。
私たちの体の中にすむ腸内細菌が調和していると、自然に心も穏やかになるように思います。