私たちの腸の中には善玉菌と悪玉菌がすみ、日夜戦っている……。そんな話を聞くと、なにやら下腹のあたりがこそばゆくなってくる気がしますね。今回は、腸内細菌たちの関係と働きのお話です。
腸の中でおこる発酵と腐敗
テレビ番組で放映されてから一躍有名になった”腸内フローラ”。一度は耳にしたことがあるのではないかと思います。フローラは花畑の意味で、腸内フローラは、細菌たちが仲間ごとに、腸壁にびっしりすんでいる様子をたとえた腸内細菌のことです。
この腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に大きくわけられます。これらは宿主(人)からみて、有益あるいは有害な働きをするもの、また、通常は何もしませんが、どちらかが増殖してくると有利な方に味方をするものを意味する総称です。
では、善玉菌の「有益な働き」とはどういうものなのでしょう?
それは、人間の体内で有益になる物質を生成して“発酵”を行ってくれることです。
この善玉菌には、主に乳酸菌やビフィズス菌などがあります。
一方、悪玉菌の「有害な働き」とは、有害な物質を生成して腸内を“腐敗”させてしまうことをいいます。悪玉菌は、大腸菌などが有名です。
とはいっても、悪玉菌はすべてが悪玉というわけではなく、実際には有益な物質をつくる細菌がいますし、免疫細胞を強化して宿主を守る細菌もいます。あくまで大まかなわけ方と考えてください。
このように、腸内細菌は、人にとっては切り離せないからだの一部分ではないかと思うのです。腸内という快適な環境の中で、私たちが食べるものの影響を受けながら、騎馬戦ごっごを繰り広げている……そんなミクロの世界を想像してしまいます。
彼らのなかで、ある程度のバランスが保たれることが、私たちが健康で平和に暮らせる秘訣なのかもしれません。このことについて具体的にふれてみたいと思います。
食べものと善玉菌・悪玉菌の関係とは?
人間の消化管は一本の管です。食べものは、口の中でかみ砕かれ、胃で分解され、十二支腸でさまざまな消化酵素と混ぜ合わされ、小腸で最終的に分解と吸収がおこなわれます。そして大腸では水分のみ吸収され、分解は腸内細菌が担ってくれます。
これら食べものの成分の中でも、オリゴ糖や食物繊維などは分解されずに、そのまま大腸まで届きます。届くと、善玉菌がその一部を分解し、乳酸や酢酸などをつくります。そうすると、腸内は酸性に傾き、アルカリ性の環境を好む悪玉菌の増殖がおさえられます。さらに、大腸の動きを促進して便通をよくしたり、免疫細胞を活発にして外敵から守ってくれます。これらが、善玉菌の有益な働きというわけです。
また、タンパク質は通常、小腸で吸収されるのですが、過剰に摂取すると大腸まで流れ着くことがあります。このタンパク質を待ち受けて、分解して増殖するのが悪玉菌です。その結果、有害な物質が多く生成され、老化や生活習慣病のリスクを高めてしまうことになるのです。
私たちのからだのもうひとつの器官
つまり、私たちが食べるものの内容によって、腸の中では善玉菌や悪玉菌が増えたり減ったりしているわけです。善玉菌の好む餌を選びながら、悪玉菌の過剰な増殖をコントロールするように、日々の食事をバランスよく工夫する必要があります。
これらの腸内細菌はとてもデリケートで、食べもの以外でも、人の受けるストレスや薬の影響などでも、バランスを崩すことがわかってきています。
腸内細菌は、私たちのからだの「もう一つの器官」ともいわれますが、それも当然と言えば当然ですね。人の健康にとって、とても大切な存在であり、重要なパートナーといってもよいでしょう。この腸内細菌とうまく共生していく工夫が必要であるとあらためて思うのです。