世界は世界で、日本は日本で、各地域に根づいた発酵食品がたくさんあります。「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。流氷を見に訪れた真冬の北海道の旅で出会った魚の糠漬けのお話です。
北海道の魚屋で見つけた魚の糠漬け
冬の北海道、道東を旅してきました。その目的の一つが流氷を見ること。今まで一度も見たことがなかったんです。そしてもちろん、おいしいものに出会うことです。アイヌ料理を楽しみにしていたのですが、行きたかったお店がコロナ禍のため休業で、旅行のキャンセルも100%の料金が発生するので、とりあえず出かけたというわけです。
温暖化のせいで流氷の量が減ってきていると聞きました。それでもこの迫力。中国とロシアの国境をなすアムール川から流れ出た水が氷るのだそうです。
さて、観光砕氷船が出る紋別で、地元の人たちも集まるという食堂に出かけてみました。その日の定食は「ふくらぎの味噌煮定食」。聞いたことのない名前に惹かれて頼んでみたら、青背のしっかりとした肉質の魚でした。
その店は隣に魚屋も経営していて、食事を終えてから覗いてみました。すると、ふくらぎの干物も売られています。もしかしたら知っている魚の名前違いかもと調べてみたら、ふくらぎというのは「はまち」の別名でした。
お店を見回してみると、糠漬けにしたなめた鰈(カレイ)、ま鰈(カレイ)、あいなめ、にしん、ほっけも売られていました。糠漬けの魚と言えば「へしこ」が有名です。若狭湾沿岸の伝統料理で、塩漬けにした青魚をぬか漬けにしたものです。かなり塩味が強くて、ご飯にも、酒の肴にもいいと言われていますよね。
北海道の伝統食「糠さんま」
東京に帰ってから写真を整理していて、この糠漬けの写真を見ていたら、どうしても食べたくなりました。ウェブで探して百貨店に入っている北海道物産を売っているお店を見つけて買いに行きました。それが、冒頭の画像「糠さんま」です。秋に獲れたさんまの頭と内臓を取り米糠に漬ければ、余分な水分を糠が吸収して臭みが取れて、発酵して熟成されれば旨味が増します。
調理は簡単で、表面の糠を洗って水分を取り、いつものさんまのように魚焼きグリルで焼くだけです。
食べてみると、生のものよりも油の香りが抑えられて落ち着いた味になっています。身の旨味も増えているようで、甘みさえ感じるほどです。糠による乳酸発酵のおかげで保存がきくようになり、同時に旨味も増して、一石二鳥とはまさにこのことです。
実は今回、糠にしんも購入しておいたので、次はそれを試してみたいと思います。それにしても、紋別の魚屋さんに並んでいたその土地の魚の糠漬けは、きっとすごくおいしいに違いありません。いつか食べに行きたいと思います。
[All photos by Atsushi Ishiguro]