「旅・写真・ごはん」をテーマに、世界中を旅する「旅行家・写真家・食事家」、石黒アツシさんが発酵食品を語るコラム。今回は、パリに滞在して日本の家庭料理を作ったお話です。その味の決め手となったのが、伝統的な発酵調味料であるお醤油。現地のとても興味深いお醤油事情を紹介してくれました。
真夏のパリで日本の家庭料理を作る
2022年7月、真夏のパリへ出かけました。あるプロジェクトの一環で、「パリで日本食を日常的に作って食べる」ということが簡単なのか難しいのかを調べるのが目的です。現地のスーパーに出かけて食材を手に入れて、料理をしてはパリに住む人たちに食べてもらって感想を聞くという作業を1週間ほど続けました。
初夏には、日中に40度を超える日もあったというパリ。訪れた頃はそれほどではなかったものの、歩き回れば汗をかくという暑さでした。朝夕は比較的過ごしやすくて、長袖が必要な日もありました。
買い物のついでに散歩しながらルーブル美術館のそばを通ると、エントランスであるガラスのピラミッドが見えてきました。この日は快晴で気温が高く、まるでエジプトの灼熱の砂漠に建っているかと思われるほど。それでも多くの人たちが列を作っていました。
手に入りやすいアジア食材と手に入りにくい食材
大手の一般的なスーパーマーケットに出かけてみると、様々なアジア食材が売られています。中華麺、米の麺、長粒米にジャポニカ米、日本やそのほかの国の醤油、酢、チリソース、味噌汁やインスタント麺など、日本では見かけないメーカーのものも並んでいました。
日本食材を扱う店にも出かけて、日本食を作るための食材を手に入れてきました。のりも、日本米も、そして日本が誇る発酵食品である味噌や醤油も売られていますし、オンラインで購入することもできるようなので、基本的な調味料などは手に入りやすいようです。
一方、苦労したのは肉でした。薄切りの肉は日本人向けの肉屋でしか手に入らないので、例えば肉じゃがを作るための牛肉は、薄めに切ったものを肉たたきで薄く延ばして使いました。
鶏もも肉はというと、だいたいが骨付きで売られているので、自分で骨を外すことになります。照り焼きチキンも、唐揚げも、まずは骨を外すところから始めなければならないので、思ったよりも手間がかかります。
ジャポニカ米も売られていて、「Sushi Rice」と書かれていたりします。日本で買う米は精米技術が発達してあまり研がなくてよくなりましたが、現地で購入したものはしっかりと研がないと粘り気が出てしまいました。
パリの都市部とはいえ、日本では当たり前のものが手に入りにくかったり、品質が違っていたりと、いろいろな発見がありました。
日本では売られていない日本のメーカーの醤油製品
冒頭の写真は、KIKKOMANがフランスで展開している醤油製品で、日本では売られていないものです。寿司と刺身用の一般的な醬油よりも軽い口当たりのもの、漬け込んで照り焼きに使うもの、炒め物に使うものなど、用途に応じて味が調整されています。
中でも驚いたのは、Sauce Soja Sucree「甘い醤油」です。パッケージにはご飯に直接かけている写真が載っています。
今回の調査では、「白飯だけでは食べにくい」という意見を多く聞きました。これまでも、外国から日本に来た人が寿司にたっぷり醤油をつけたり、定食屋でごはんにしょうゆをどばどばとかけてしまうという話を聞いていましたが、まさにその通りです。
そういえば、子供のころには味のついていない白米はあまり得意じゃなかったことを思いだしました。それに、大人になってからもいわゆる「ご飯のお供」といったたぐいの加工品は大好きです。「味のついたご飯がおいしい」というパリの人たちの気持ちもわかります。
今後は今回の体験をもとに、フランスに住むフランスの人たちが、手軽に食べることができる日本の家庭料理のレシピを作っていきたいと思います。いつかご紹介できたらなと思います。
[All photos by Atsushi Ishiguro]